23話 聖剣の力──魔女の権能、衝突
先刻、自分の無力さを自覚したとおり、俺は眼前に広がる戦闘に全くついていけないで立ち尽くしている。
「……じゃまっ!!!」
ハラルドの振り下ろした剣が床を砕き、飛散した破片が中を舞う。
それをルクレツィアが手で払い、続けざまに初めて見る魔法が飛ぶ。
「これは、いらないから返すねっ!!!──『拒否』っ!」
ルクレツィアが触れた破片は軌道を変え、ハラルド陣営に向かう。
直撃すればただでは済まない、そう感じさせる速度で飛来する石礫を、ハラルドもまた平然余裕と言わんばかりに聖剣で撃ち落とす。
「……『女神に祈る、真実を照らせ、闇を払え……『ハーピィ・ダンス』」
ヴィーナの魔法。何もなかった空間に光の羽を象ったものが生まれ、こちらに向けて飛ばされる。
「解析……完了。法則に干渉──『反転』」
今度はクラネッサが権能を行使する。
ヴィーナの魔法に真っ向から、クラネッサの魔法がぶつかり、火花を散らす。
「──ふんっ!」
その火花で一瞬視界が遮られ、その陰からハラルドが一閃を振るう。
「──『拒否』!!!」
それをはねのけるルクレツィア。
ここまでの出来事、時間にして、一分程度。
「おいおい……マジか。本当に俺と同じ人間なのかぁ?」
思考がギリギリ追いつく。しかしそれは、俺の身体的な反射速度が伴うものではない。
「──ルシアンっ!」
「おっ──!?」
横合いからの衝撃に、またもや俺は弾き飛ばされ、床を転がる。
「大丈夫!? ──『拒否』!!!」
俺を突き飛ばした本人は、俺に向けられたヴィーナの追撃を魔法で打ち消す。
「すまん! ルクレツィア!」
地面をたたき、顔を上げると、すでにハラルドの追撃が目の前に──
「もうっ!!──『反転』」
──目の前で熱が飛び交う。
魔法の衝突が、熱エネルギーとなり、俺の体に降りかかる。
「あっっつぅ!」
触れた個所が赤みを帯び、火傷になった。
「──許さない」
刹那、静かな呟きが俺の耳に届く。
「所有の魔女の名の下に、支配を実行──『リープ』……」
宙を舞っていた埃も、瓦礫も、魔力も熱も……すべてがルクレツィアの手のひらの上、その一点に刈り取られ、収束する。
そして、圧縮された魔力がその失ったエネルギーを取り戻すかのように、膨大な衝撃を作り出す。
「──っ!!!!」
クラネッサの領域が間に合った。かろうじて、俺にはダメージこそ無いものの、室内の大部分が失われた。
(そういえば、昔……魔女を殺す兵器として、魔力の膨張限界からの放出──『魔力爆発』ってのの研究があったらしい。
残念ながら、人間の魔力総量では、その莫大な魔力を集めることすら不可能で、実現には至らなかったらしいが……)
目の前にして直感的に理解したが、これは危険すぎる魔法だ。
クラネッサの領域に守られていなかったら……、考えるだけでゾッとする。
事実。
ルクレツィアの領域外にいたはずの、ローレン司祭たちもあまりの爆風に吹き飛ばされ、今や部屋の奥隅の瓦礫の上に寝転がっている。
そっちの方も、怪我はなさそうだ。
クラネッサがローレン司祭達の方に手を伸ばし、かざすような仕草をしていることから、彼女が守ったのだろうと予想がつく。
「……やるねぇ……」
吹き飛ばされた瓦礫を崩しながら、立ち上がるハラルド。
聖騎士団の隊服は破れ、ところどころから血が滲んでいる。
しかし、しっかりと握られた聖剣には綻びがない。
「剣で受け流した……?」
ルクレツィアが冷静に分析している。
「おおおおおぉぉぉぉ──!!!」
所有の権能領域が解除されたのだろう。
さっきまで転がっていたはずの騎士たちが、雄叫びを上げながら各々の剣を手に持ちルクレツィアに襲い掛かる。
「……邪魔」
そんな凡人の攻撃など、軽くあしらうルクレツィア。
その視線はしっかりとハラルドを捉え、一切の油断は無い。
それほど本気の一撃だったと、そう物語る目だ。
「女神の御業を持って、傷つき迷える彼の者に再起の力を分け与えん──『ホーリー・ヒール』」
ヴィーナがハラルドに治癒の魔法を使う。
ハラルドの肩口の傷が塞がり、出血が止まる。
衣服までは元に戻らないが、怪我によるダメージはこれでゼロに戻る。
「……やっぱり、先に片づけるなら……そっちの娘の方かな?」
「そうはさせないよ!」
ハラルドの反撃。
聖剣が光を放ち、魔力の斬撃が放たれる。
床を切りつけながら、進行方向に存在するすべての障害を切り伏せながら真っすぐにルクレツィアの方へ。
「……。」
それを無言で領域の壁を使って防ぐ。
「これが人間の最強、ね……。ルクレツィアは間違いなく、私よりも強いよ。それなのに、まだ立っていられる人間がいるなんて……」
驚愕に似た感情を顔に出すクラネッサ。
しかし、頬は少し吊り上がり、笑っている様にも見える。
「あの聖剣ってのも……面白いね。君たち風に言えば……異端の魔法を断ち切る剣ってところか」
クラネッサがいつに無く、饒舌だ。
楽しんでいるのか?、この状況で。
「おっと、次は君が狙われてるみたいだね」
ハッと、俺は振り返る。
先ほど飛ばされた騎士の一人が、剣を振り下ろす光景が視界に広がり──自分の頭部が宙を舞う映像。
そんな確実に訪れると思われた未来が、ゆっくりと脳内で再生されるが……その未来は訪れなかった。
「君が傷付くと、ルクレツィアが怒るからね……」
クラネッサが両の手を広げる。
「訪れる力は還り、放つものは戻れ。力の流動は私が決める──『リバース』」
クラネッサが口にした言葉が力を帯びて、壁を成す。その壁に振り下ろされた剣が触れた刹那、剣の進行方向が逆へと向かう。
鋼と鉄が打たれるような快音の後、大の男が仰け反る程の衝撃が騎士を後方へと吹き飛ばす。
「ぐっ…!」
鈍く短い声が、床に叩きつけられた騎士の口から漏れ出る。
「……ありがとう、クラネッサ」
その様子に、ルクレツィアが短く感謝を伝える。
そして──
「ここからは、ルシアンのことお願いね。
私は……この人達を本気で倒すから」
「いいね……その闘気。受けて立つよ」
自身に向けられた強烈な殺意に、身震い一つせずハラルドが答える。
所有の魔女と最強の聖騎士の戦闘は、更に加速する。
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