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22話 聖騎士・ハラルド=ヴァルトリア

 「貴様ら、これは一体何事だ!!」


 疲弊したカイルの姿を見て、聖騎士団の中でも下っ端風な男が叫ぶ。

 

 「ハラルド……、あの銀髪の女と……あっちの碧色の瞳の女は、魔女だ……!」


 カイルは息も絶え絶えになりながら、隊長格の男の名を呼び状況を簡潔に伝えた。


 「後のことは全て、この私──ハラルド=ヴァルトリアにお任せください。その間に殿下は、ヴィーナの治療を受けてください」


 そういうと、ハラルドの後ろから白い長髪を揺らしヴィーナと呼ばれた少女がカイルに近づく。



 「女神の御業を持って、傷つき迷える彼の者に再起の力を分け与えん──『ホーリー・ヒール』……」



 ヴィーナの手がカイルの肩に触れ、触れた所から全身を包むように光が走る。

 

 「……ルシアン……あの魔法、むしろ毒だよね?」


 ルクレツィアが静かに、気持ち悪いものを見るように……顔を歪める。

 そんなルクレツィアのことはさておき、俺は必死で記憶の中の情報を探していた。 


 (ハラルド……ハラルド……どっかで聞いたことある名前だ……どこだ。どこで聞いたんだ……?)


 「さて、女神様と王家に仇なす大罪人どもよ。

 我々に、汝らの言い分を聞く気はない。全て切り捨てさせていただく──!」

 

 「……あぁ、剣聖・ハラルドだ──っえ!?」


 俺は横から弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 視界の先、俺が立って居た場所が真っ黒に切り裂かれている。


 比喩なんかじゃない。

 本当に、それはまるで、空間ごと断ち切られたように、歪に、不穏に、正確に、俺の首の高さが裂けていた。



 「ねぇ、もしかして、本気でルシアンを殺そうとしたの……かな?

 そうだよね?──じゃあ……許さないから」


 空間が今度は、別の力で歪む。

 

 「──がっ……なっ!?」


 聖騎士団の連中が首を抑えて倒れこむ。

 空気が消滅したかのように、顔が青ざめ、泡を吹く。


 立って居るのは、ハラルドとヴィーナ、ルクレツィアとクラネッサ。

 ローレン司祭やカイル達は……領域の範囲外にいるみたいで、なんともない。


 「これが、ルクレツィアの本気……ってことだよな……」


 ルクレツィアの領域内で、立つことを正式に認められている俺ですら、膝が震える。

 生物としての、抗うことのできない本能。


 死。


 それが目の前に、俺を攻撃したこの世界のすべてを憎み、立ちはだかるのだ。


 「ルシアン、コイツらは知り合い? 助けたい? どうしたいの?

 ねぇ、早く教えて。早く答えて……じゃないと、殺しちゃうよ?」


 「おいおい、ルクレツィア……殺すのはダメだ……。

 けど──」


 キンッという耳を劈くような金属音。

 脳が揺れる。


 バチバチと視界の端で火花が飛び散る。


 「あ……あぁ……っ、あ……ぉぅ……おぇぇぇぇ……」


 ビシャビシャと音を立てて、自分のゲロが靴に飛ぶ。


 (何がおきた……? 切られたのか……?)


 

 「ルシアン……大丈夫だよ。君は私が守るって言ったでしょ」


 「お、ぉぉぉ……お、俺……俺に、なに……が……っ?」


 完全に、俺の呂律が壊れた。

 思考は正常のようで、口だけがマヒしたみたいに思うように動かない。

 そんな俺に、ルクレツィアは穏やかな口調で話す。

 しかし、その目は一切の油断も隙も無い。深紅だ。

 

 「アイツ──ハラルドだっけ? が、あの気持ち悪い剣で魔力を飛ばしてきただけだよ」


 見れば、ハラルドが片手剣と呼ぶには不格好に大きな剣を、振り下ろした体制から立て直している最中だった。


 「ルクレツィアの権能の中で、人間が立って居られるだけでも驚きなのに……。

 まさか、反撃してくるなんてね」


 「クラ……ネッサ、お……俺、は……」

 

 「君は、ルクレツィアの権能領域に守られて、直撃は避けられてるよ。

 ただ、それだけ。死んだりしてないから安心して」


 「あ、ああ……」


 だめだ。

 俺はこの戦いで役に立てない。そう確信する。


 「……やれやれ、流石は『二つ名』を有する程の魔女、というところか。

 まさか、権能の力がこれ程までとはな。立って居るのは──私と、ヴィーナだけ……。

 他の奴らはまだまだ修行が足りないな……はぁ……早く終わらせて、帰るとしようか」


 「ハラルドさま……私も早く、帰りたい」


 「わかったよ、ヴィーナ。──そこの君、魔女と一緒にいたから切りつけたが……そちら側の人間で間違いないね?」

 

 ハラルドが俺に問いかける。

 

 「ルクレツィア、クラネッサ……気を付けろ。

 アイツは、ハラルド=ヴァルトリア……聖剣の一つに選ばれた、人類最強の一人だ」


 「へぇ~……。あれが聖剣、ね……」


 クラネッサが舐めるような目で、ハラルドの剣を見る。

 

 「ハラルドさま……あいつ……気持ち悪い」


 そんな視線に、不快だと、ヴィーナが訴える。


 「もういいかな?」


 ハラルドがため息をつきながら、話を本題に戻そうとする。


 「返事は……なし。じゃあ、もう話すことはないね」


 それだけ言って、再び剣を天高く突き上げた。


 「──来るよ……」


 ルクレツィアが俺を掴む手に、力が入る。


 そしてまた、俺の視界が天地を見失い……ゲロをまき散らすことになった。


 「ルシアン……汚い……」


 ルクレツィアが、ハラルドの斬撃をよけつつ、聞こえるかどうかギリギリの声量で呟いたのを……俺は聞き逃さなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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