21話 魔女との戦い方
──バンッ……!!!
重い金属音と、圧縮された魔力が炸裂する音が混ざる。
ルクレツィアの領域から出た途端にその銃声すら無音と化し、静寂に包まれる。
「おまけのくせにっ……! 銀の弾丸なんて……あぁ!!! 邪魔くさいなぁ、もうっ!」
「おいおい、卑怯とか言ってくれるなよ?
こっちは、お前たちみたいに空間に干渉するような、そんな非常識的な魔法は使えない一般人だぜ?」
ガリガリと音を立てながら、ルクレツィアとクラネッサの領域が互いに浸食と反発を繰り返す。
「ルシアン、ちょっとは手加減してね? 一か所にだけ穴開けるの、疲れるんだからっ!」
ルクレツィアの領域を抜けた銃弾が、例外なく失速する。
そのことから、クラネッサの領域内では、音が消えるだけではないことが分かった。
音の波を消しているというよりも──物体から発す振動そのものに干渉しているものだと推測できる。
「ルクレツィア! もう少し領域を広げられないか?」
「無茶言わないでよ。はっきり言うけど、領域の維持だけでも魔力がどんどん削れるんだからねっ!」
ルクレツィアは領域の維持に精一杯で、こちらの攻撃は俺の銃頼みだ。
一方で、クラネッサはその点かなり有利な状況にある。
「物理法則を解析……完了。物理法則を模倣──『反転』
「ちっ……! 来るぞルクレツィア!」
「わかってるよ!」
ルクレツィアの目がさらに深く、赤黒い色へと変わる。
クラネッサとルクレツィア、どちらがより強いのか……単純な魔法勝負では、ルクレツィアに分がある。しかし、クラネッサの魔法には俺たちに主導権を握らせない、一つの法則があった。
それが、エネルギーの保存と反転だ。
銀の銃弾の推進力そのものを錬成した魔力に変換して、任意の方角、タイミング、角度で反転させてきやがる。
「──っっっう……!!! あぶねぇなぁ、おい!」
目の前で、ルクレツィアの領域の壁が火花を飛ばす。
つい先ほど、俺の発砲により空いた穴が塞がったギリギリの瞬間。
「……こりゃあ、マジで急ぐ必要があるな……」
銀の弾丸は、通常の金属の何倍も魔法に対する耐性が高い。
失速こそすれど、当たれば十二分に致命傷となる。だからこそ、俺はルクレツィアを信じて撃つしかない。
もし仮に、ルクレツィアとクラネッサが真正面からぶつかり合えば──
この部屋は地獄と化すだろう。
ちらりとローレン司祭の方を見たが、限界が近いように見えた。
ローレン司祭の額から大粒の汗が流れ、銀の十字架を握る手から血が滴っている。
魔法同士のぶつかり合いは、何も魔法による直接的なダメージだけが脅威ではない。実は空気中の魔力の濃度が濃くなる方が厄介なのだ。
特に魔法に耐性が低い、カイルやミリア嬢はすでに膝をつき、息が上がっている。
(くそっ……! 『急性魔力中毒』の症状が出始めてるな……)
クラネッサ対、俺とルクレツィアの構図に見えて、その実はローレン司祭やカイル、ミリア嬢の状態も気にして戦う必要がある。
これ以上魔力濃度を上げないためにも、ルクレツィアに魔法を使わせられない状況なのだ。
「ルクレツィア、頼みがある」
「なに、ルシアン」
「クラネッサの反射攻撃が止んだ瞬間、領域を開放してくれ!」
「はぁ? そんなことしたら、クラネッサの権能に呑み込まれちゃうよ!?」
「物理法則にだけ干渉されるなら、魔女の力で干渉されない『聖弾詠唱』しかない──けど、ルクレツィアの領域内では、俺は聖魔法は発現できないんだよ」
初めて所有の権能を見たあの日以降、俺たちは今後の旅の中で、自分たちの身を守るために戦い方を模索してきたのだ。
その中でわかったことの一つ、それが──
ルクレツィアの領域内で俺の聖魔法は発現しない。
理由を考える中で、原因についてはある説が思い浮かんだ。
俺がルクレツィアの所有物であるという説だ。
聖魔法は魔女を殺す為の人類の魔法であり、ルクレツィアにも有効な攻撃手段だ。
つまり、所有物である俺が、所有者であるルクレツィアを傷つけない為の保険、簡単に言えばそんなところだろう。
「でも……」
ルクレツィアが心身なさげに顔を暗くする。
「守ってくれるんだろ?」
「はぁ……。ほんと、ルシアンの頼みじゃなかったら、絶対にそこまで頑張らないんだからね!?
そこのところ、ちゃんとわかってる!?」
「わかってるし、──信じてるさ」
「もうっ! ルシアンのそういうところ、ずるいよっ!」
──バチッ!
戦闘中も、何発の弾丸を撃ったかカウントしている。そう、これが最後だ。
つまり、ここから先はクラネッサの領域魔法が来るが、ルクレツィアならなんとかしてくれるはず。
俺はただ、一発の銃弾に祈りを込める事にだけ集中すればいい。
「──いくよっ!」
ルクレツィアが領域を解放する。
途端に俺の視界が白黒に反転した。
音が消える……これが、知楽の権能領域か。
声は出ない。
けれども、口が動けば十分だ。
『聖なる母よ、赦し無き者に裁きを下せ──祈祷の言葉を糧に、祈らぬ者の穢れを燃やせ。
その権能は聖なる浄化、我が願うは必滅なり。
──神祇・解放』
無音の世界の中で、閃光が弾け、硝煙が舞う。
──パリンッッッ!!!
クラネッサの領域がひび割れ、ガラスのように砕ける。
「──くっ!?」
眩い光が室内を満たして、あまりの光量にクラネッサが目を細める。
再び訪れる、穏やかな静寂。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫、ルシアン!?」
「あぁ……大丈夫だ──っ……」
「あっ!」
全身の力が抜け、前のめりに倒れそうになる。そんな俺をルクレツィアが優しく支えた。
「すまん……」
「もう……無茶しすぎだよ」
「ああ……」
ローレン司祭たちは……無事なようだ。
とはいえ、もう魔力もほとんど残っていないだろう。
ローレン司祭は床に手をついて、荒れた呼吸を整えようと肩を上下させている。
「……ほんとにっ……! 人間のくせに……」
クラネッサは、部屋の奥の壁に叩きつけられていた。
崩れた壁の瓦礫の中から姿を現すが、傷はない。
「おいおい……無傷って……マジで化け物かよ……」
「ルクレツィア……」
「なに? クラネッサ」
「なんでそこまで、その人間に入れ込むのさ……」
クラネッサも肉体は無傷であるが、魔力回路には傷がついたのだろう。
先ほどまでの、流暢で膨大で、人間とは異なる異質な魔力の流れを感じない。
「なんでって言われてもな~……ぽっ」
ルクレツィアの瞳はいつもの色に戻り、照れた様に振る舞う。
「ふんっ……魔女が恋を語るの……」
呆れたと言わんばかりにクラネッサは言い捨てる。
「ふぅー……。俺たちの勝ちってことで、いいよな?」
「もういいよ。疲れた。
今から、そこのピンピンしてる本物のルクレツィアと戦うのは無理」
ルクレツィアの表情に、戦いの疲れは見られない。
これも彼女の権能の力の一つだ。
(権能領域の解放後に生まれる、領域内外の魔力濃度の差分を、『所有の権能』の名の元に吸収する事ができる……。しかも、その吸収した外魔力を、消費した自身の保有魔力に補填する力……。
なんとも、戦闘向きの権能だ)
魔力は生命力に直結する。
クラネッサが無傷なのも、彼女が魔女と呼ばれる程の魔力量を有することを意味するのだが……。
ルクレツィアのそれは、魔女の視点で評価しても、まさに化け物と言えるのだろうな。
そうして、俺たちは戦いの後の余韻に浸る。
しかし……。
──バタバタバタっ!!!
「殿下っ!!! どこにおられますかっ!」
静かな部屋の中に、重い足音と鎧の擦れる音が流れる。
「……本命のお出ましだな」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次話では、疲弊したルシアンと余裕なルクレツィアが、王族直下の精鋭・聖騎士団との戦闘に入ります!!
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