19話 教会の隠し事
「ローレン様、それはお客様方に大変失礼な質問だと思います……」
口の端が震えている。
イザベルさんからしたら、ローレン司祭は雇い主であり、親のような存在だ。
そんな人に、指摘するなんてずいぶんと勇気のいることだろうが、それを俺たちのように今日会ったばかりの他人の為に行動に移せる人間。
それだけで賞賛に値するが……一方で、ローレン司祭の様子はというと。
「イザベル、これはとても大事な質問なのです。この方々は、ただの入信希望者でも、旅人でもない。
それがどういうことか──説明しなくてもわかりますね?」
「はい……。ですが──」
「イザベル!」
──ビクッ!!
ローレン司祭の一喝で、イザベルさんは完全に委縮してしまう。
(はぁ……。俺だって、できることなら、黙っていたかったさ……)
彼女の勇気には、俺もそれ相応の対価を払おう。
「ローレン司祭様、よろしいでしょうか」
「なんでしょうか、ルシアーノさん」
「もういいですよ、ローレンさん。どうせ俺は、すぐにこの街を出ていくつもりですし」
俺は席を立ち、真っすぐにローレン司祭を見る。
絶対に目をそらさない。
「る、ルシアーノ……?」
「いいんだレティ。実は俺とローレン司祭は昔、一度会ったことがある」
「え?」
「ローレン司祭、それは全部知ったうえでの質問なのでしょう?
カイルさん、もう隠さなくてもいいですよ。この人は、これでも聖教会の高位神官です。
あなたの正体にも、当然、妹さんの正体も知っているはずです」
「……そうか、ルシアーノがそう言うなら、もういいな」
カイルは。顔を隠していた口周りの布を外す。
「……え、えええぇぇぇ!?」
カイルの顔を見た途端、イザベルさんが驚きの声を上げた。
そりゃあそうだ。
目の前にいるのは、この国の王太子で、そんなカイルの妹は当然、この国の第一王女ということだ。
教会の侍女みたいな、いわゆる平民階級の人間にとって、王族というのは雲の上の存在なのだ。
そう、たとえそれがつい先ほどまで、お菓子を夢中で貪っていた兄妹であってもだ。
「改めて、自己紹介をさせていただこう。
私の名は、カイル=アンネル。この国の王位継承権第一位の王太子である。
訳あって身分を隠していたこと、深くお詫びする。すまなかった」
カイルも一応、王族なのだな。場をわきまえている。
そんな姿に、少し感心した。
「では、ローレン殿、先ほどの貴殿の質問に対する答えだが……。
この教会は何を隠している?なぜ、ミ……妹が、こんなに執着する。
私はその理由が知りたい」
いや、やっぱりだめだ。ミリアって言いかけたぞコイツ。
「お、お兄様、私は別に……執着なんて……」
「はははっ……ミリアさん、良いのですよ。カイル殿下……。
殿下の妹君は、本当に邪な気持ちで、この教会に来てくださっているわけではございません」
「では、何ゆえだ」
「……『知楽の魔女』。そう呼ばれる者が、この教会には住んでおります」
「なっ──!? 魔女を、教会が匿っているだと!?」
「匿っていると申しますか……むしろ我々が、魔女に助けていただいております」
おやおや、カイルはずいぶんと動揺しているように見受けられるな。
まぁ、それも仕方ないか。
教会の運営資金のほとんどが、国からの支援──つまり、王族であるアンネル家の援助によるものなのだ。
そんな教会の──しかもこの街一の教会の司祭官が、魔女を匿っているだなんて、国を揺るがす大事件だ。
「ローレン殿、その話がもし仮に真実であれば……どうなるのかわかっているのか!?」
「もちろんですとも、殿下。教会の閉鎖に加え、私の首一つで済めば安いものですな」
「バカ者! そんな程度の話で済むわけがなかろう!」
カイルの言葉が強くなっていく。
「──まて……ということは、ミリア! お前も知っていたと言うのか!?」
ミリアは下を向いたまま、微動だにしない。
残念ながら、今は政治の時間だ、ミリア嬢。
議会における沈黙は肯定の意。
つまり、自白したということだ。
「そんなっ……。どうして……? なぜだ」
(もう完全に混乱しているな……。仕方ないか……)
最愛の妹が、国家転覆の一端を担っているだなんて、お兄ちゃんとしては到底受け入れられないだろうしな。
「カイルさん、少し落ち着いて」
そう言いながら、俺がカイルの肩に手を置くのだが。
「落ち着いていられるわけがないだろ──!?」
強くはねのけられてしまう。
「ルシアーノ、どういうことだ……。貴様はどこまで知っていた!」
ついには怒りの矛先が俺にまで及び始めた。
そうなってくると、当然だが黙っていられない人が一人、この場にいる。
「ねぇ、君。──少し黙ってて」
ズシッと空気が重くのしかかる。
『所有の権能』──ルクレツィアの、拘束魔法だ。
「なっ──!?
この魔力……貴様、魔女か!?」
ルクレツィアは椅子に座ったまま、足を組みなおす。
「私は、君に、黙れ、って言ったの」
ルクレツィアの指先が、無慈悲に下に振られる。
それによってさらに空気が重くなり、すでにカイルは椅子に座ったままの姿勢から指一本、動かすことができない。
「おい、レティ。──もういい、やめろ」
「はーい……。よかったね、王子様。ルシアンがいなかったら、君は二度と立てなくなっていたかもだよ」
「おい」
「わかったよ~……むぅぅっ~……」
ルクレツィアは俺に静止させられたのが、気に食わないなりにこの場は手を引いてくれた。
「ルシアーノ……すまなかった。
そして、ついでで更にすまないのだが、説明をしてくれないだろうか?」
自由になったカイルが、まだ荒い呼吸のまま俺に説明を求めてくる。
「カイル殿下、ここにいる者は……殿下を除いて全員、魔女の扱いに疑問を抱いている──そういうことですよ」
「そう、か……。それで……それが、教会が魔女を匿うこととどう繋がるのだ……?」
──ここからは、私がお話ししましょう。
そう言って、ローレン司祭が話に割って入る。
「イザベル、すまないが殿下に肩を貸して差し上げなさい」
「はい。カイル殿下、失礼いたします──うんっ、しょ……」
「まずは、どうぞこちらへ……。話すよりも実際に会っていただく方が早いでしょう」
イザベルさんに支えられながら、カイルが聞き返す。
「会うというのは……」
「はい。知楽の魔女『クラネッサ』にで御座います」
大広間の端。黒い扉の先に案内される。
そこは建物の外観からは想像できない程の広大な空間だった。
そして、部屋の真ん中の道の先には、玉座に座る女がいた。
「……久しいね、ルクレツィア」
碧色の瞳がルクレツィアを捉える。
その佇まいが、彼女が何者であるのか物語る。
(彼女が、知識の探究者……知楽の魔女、クラネッサか……)
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