閑話 アンネル王国 その頃、ルクレツィアは
「まったく……ルシアンは……もうっ!」
私は朝からルシアンに怒っている。
正確には、昨日あの女と出会ってからだ。
「イオナさん、だっけ?
ルシアンにあんなに馴れ馴れしくして……」
ルシアンは私のものだ。
一度死んだ彼を、生き返らせてあげたのは私だし、ルシアンがお願いするから騎士団の連中だって助けてあげたのに。
しかも、薬だって飲ませてあげたんだ。
「それなのに……それなのに~!!!」
街中で叫んだせいで、周囲の人が私の声に驚いて振り返る。
(あ……。ルシアンに、目立つなって言われてたんだっけ……)
私は急ぎ足でその場を去った。
街は人で賑わっている。
いい街だなって本当に思う。
そういえば、この街の近くを昔、一人旅していたころに通った気がする。その時は独りだったし、魔女だって事を隠すので精一杯で、街には立ち寄らなかったな……。
ルシアンのおかげで街に入ることができたし、何ならこの街に来るまでだって、とっても楽しかった。
「帰ったら……ルシアンに謝ろうかな」
──きゃっ!!?
ドンと、誰かにぶつかってしまった。
「あっ! ごめんなさい!」
恐る恐る目を上げると、小さな女の子が立っていた。
「あっ……いえ、こちらこそごめんなさい」
礼儀正しい、綺麗な栗色の髪をした女の子だ。
「……。」
「……。」
気まずい。
「えっと……本当にごめんね? そ、それじゃあ、気を付けて……」
そう言って離れようと思った。
でも、女の子は下を向いたままコクリとだけする。
「……大丈夫?」
どこか痛めたのかな。
心配になって、顔を見ようとしゃがもうとしたら、少女はさらに深く顔を下に下げる。
「いえっ! 大丈夫です! ……。」
(うーん、困ったな~……。私、人間の子供って得意じゃないのに……)
どうしたらいいのかわからず、ちょっと周りを見渡すが、もちろんルシアンの姿は見えない。
「あっ……えっと……。よかったら、どこかでお話でもしない?」
放っておくのは心苦しく感じて、この子が落ち着くまでどこかでお話でもしようかなって考えに至った。
女の子は「はい……」と小さく答えて、私の後についてくる。
(妹がいたらこんな気持ちなのかなぁ)
私は、そんな想像に思いを馳せる。
街の真ん中には、綺麗な広場があった。その中央には噴水があって、私たちはそこに座ることにした。
途中で羊の乳を、砂糖で甘くして冷やし固めた『アイスクリーム』という食べ物を二つ買った。
おかげで、ルシアンから預かったお金が無くなってしまったけど、女の子はおいしそうにアイスを舐めている。
なんでも、アンネル教王国は渓谷に栄えているから、すぐ近くに大きな山岳草原があって、羊の放牧が盛んなのだそうだ。
羊はすごいと思う。
毛は衣服に、乳は飲み物やこうしてアイスに、肉は食卓に並ぶ……捨てるとこは少ないらしい。
アイスで心を開いてくれたのか、女の子が教えてくれたのだ。
「ありがとうございました。
ご迷惑をおかけしてすみません……」
「私こそごめんね。ちょっと友達と喧嘩しちゃって……よく前を見てなかったわ」
「お姉さんの目、綺麗ですね」
「え……? あ、ありがとう」
「私はミリアと言いますの。お姉さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」
(この子は物怖じしない性格のようね。それに、話し方がとっても上品。貴族の子なのかな?)
ルシアンに本名は絶対に隠せって言われてるし……
「えっと、私の名前はレティ。よろしくね、ミリアちゃん」
「ふふふっ……。ミリア、ちゃん……ふふふっ……」
何か喜ばれるようなことを言えたのかな?
ミリアちゃんがクスクス笑っている。
「お姉さん、外の国から来たでしょ」
ドキリとした。
もしかして私の正体がバレてしまったのかと思った。
けれども、バレたとは違うような雰囲気。
「ええ。友達と一緒に旅をしているの」
「そうなんですね! いいなぁ、私もいつか旅に出てみたいなぁ……」
子供には似つかわしくない、遠い目をしている。
この目は私も知っている。
諦めている目だ。
「ねぇ、ミリアちゃん?」
「はい」
「この街でどこかおすすめの場所って知らない?」
「あります! 私のとっておきの場所が──」
そして、連れられて行った教会で、私は半日ぶりくらいにルシアンと再会したのだ。
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