18話 司祭様の試験
「試すような事をしてしまいすみません。
いやなに、君のような生粋の審問官さんが、どう言った心境の変化で今に至るのか…。
そして、それに見合う覚悟はできているのか、年甲斐もなく気になってしまいましてね」
そう言うと、ローレン司祭は手を叩く。
その音ですぐに侍女がやってきて、俺の分と合わせて二杯のコーヒーを淹れてくれた。
「毒なんて入っていませんよ。どうぞ安心して召し上がってください」
俺はまだ状況が把握できておらず、コーヒーに伸ばした手が固まっていた。
そんな俺に気遣いをしてくれたのだ。
「…ありがとうございます。いただきます」
ズズッと静かに音を立ててコーヒーを飲む。
行儀が悪く見えるかもしれないが、熱いのだ。仕方ないだろ。
「それで、更に聞きたいのですが……これからどうするおつもりですか?」
コーヒーを口にしながら、こちらの様子を伺うようにローレン司祭が話を続ける。
「僕は……、魔女ってだけでルクレツィアを敵にしたくないと考えています。
出会って数日ですが、アイツは良いやつです。
むしろ、その辺のゴロツキよりも、ずっと人間らしい優しさを持っている……そう信じています」
「そうですか」
また、少しの沈黙。
コーヒーを飲み終え、カップを受け皿に置く音だけが響く。
「それでは、そろそろお連れの方達の所に行きましょうか」
ローレン司祭が先に席を立ち、俺はその後を追う様にベンチから立ち上がる。
「ああ! そうそう、忘れる所でした」
突然ローレン司祭が振り返る。
「ルシアーノさん、あなたがこの教会を尋ねてきたのは、カイル王太子のご希望あってのことですよね。
それの答えがまだでしたね」
全て見透かされている、そう確信が持てる言い方だった。
俺のことをルシアーノと呼ぶ辺り、この教会にはやはり神官として相応しくない秘密があるのだろう。
「いるんですよ」
静かな声だった。
「この教会にも、魔女がね……」
賄賂ではなく、それでいて一国の王の娘がコソコソとする理由。
やはり、としか言いようがない。
「あら、驚かないのですね」
ローレン司祭は悪戯っぽく話しかける。
「えぇ……まぁ……。俺を見逃すくらいですし、何かはあるのだろうってぐらいでしたが」
「そうですか、そうですか!」
なんで、こんなに嬉しそうなんだ?
もしかして、同志ができたと思われているのだろうか。
ルクレツィアは良い魔女だ。
しかし、ルクレツィア以外の魔女が全員良いやつって訳じゃないし、それはもちろんこの教会にいるらしき魔女だって、善悪の判断はできない。
しかし、ローレン司祭の反応から、きっと良い魔女なのかなと期待してしまう。
「では、お先にどうぞ」
そう言われて、俺はルクレツィア達が待つ大広間の扉を開けた。
「ルシアーノ! 遅い!」
俺の姿を見るなり、ルクレツィアが大きな声を出す。
どうやらお菓子を食べてる最中だったようで、ルクレツィアの口元には粉が付いていた。
「……レティ、汚いぞ。口を拭け、口を」
「このお菓子すっごく美味しいよ! こんなの初めて食べた!」
カイルと妹のミリアも、同じ様にお菓子に夢中だ。
いつの間にか俺の表情筋も緩んでいる。
「ルシアーノ! 何してるんだ、早くお前もこっちにこいよ」
カイルが手招きしている。
「もう、お兄様! 粗暴ですよ!」
ミリア嬢が一番年少者なのに、最もお上品だ。
女の子ってのは、お淑やかなのが一番いいね。
「あわわわわぁ……」
イザベルさんは……大変そうだ。
なんだか物凄く申し訳ない気持ちになる。
しばらく全員でお菓子とコーヒー(ルクレツィアとミリア嬢は紅茶)を楽しんだ後、徐にローレン司祭が話を始めた。
「いかがでしたかな、この街の名産のお菓子の数々は?」
「美味しかったですよ。色々とすみません」
「いえいえ、ルシアーノさんが謝ることなどなにも。
楽しんで頂けたみたいで何よりですよ。
それで──」
紳士的な翁の目から、高位審問官としての目に、ローレン司祭の目の色が変わる。
ここからが本題ってことだろう。
「レティさん、カイルさん、ミリアさん。
そして、ルシアーノさん。
それぞれが何か目的があってここにおいでなのではないでしょうか」
チラッと俺の方を一瞥したのは、口を出すなってことだろう。
ローレン司祭は、今度は俺以外の奴らのことを試すつもりらしい。
気を許した所で本題に入り、場の空気を掌握する
── いかにも、審問官らしいやり方だ。
ここに集う全員が、自身の身分や正体を明かせない訳ありの人種ばかりだ。
それを見越しての質問。タチが悪い。
ミリア嬢は俯き、カイルは目が泳ぎ、ルクレツィアは……。
楽しそうに首を左右に揺らしている。
(何を考えているんだ……あいつは)
さて、この沈黙、誰が一番最初に破るのか、と待っていると、最初に話し始めたのはイザベルさんだった。
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