17話 高位司祭の実力
「ル、ルルルルッ──!? ルシアーノ?」
目の前には慌てふためくルクレツィアがいた。
俺の本名を口走らないか心配だったが、何とか持ち直したようだ。
「よ……よお、レティ。なにしてんだ?」
「ルシアーノこそ、何してるの?」
「いや……俺はこの人の──」
俺が事情を説明しようとするも、それよりも先にカイルが俺の横を走り抜け、ルクレツィアと共にいる少女の方に駆け寄る。
「ミリア! こんなところで何をしてるんだ!」
「それはこちらの言葉です、お兄様!」
(う~ん……。何ともめんどくさい状況だ)
隣でイザベルさんが狼狽えて居る。どういう状況なの、って言う心の声が聞こえてきそうだ。
「──おやおや、これまた今日は一段とにぎやかですね~」
そんな俺たちの前に、丸眼鏡をかけた老人が歩み寄ってきた。
背筋がしっかりと伸びており、背は俺と同じくらいか、ちょっと低い低程度だ。
その佇まいは、まさに司祭様って感じだ。
「すみません、ローレン様……」
確定。
この老人が、この教会の長であり、聖教議会認定の高位司祭であるローレンという人物だな。
「はじめまして、司祭様。騒がしくしてしまって、すみません。
僕はルシアーノ、旅するハンターです」
「……ルシアーノ……さん、ですか……。
どうも初めまして」
俺の軽い自己紹介を聞き、ローレンは少し顔を歪めた気がした。
しかし、すぐに穏やかな紳士の顔に戻った。
「イザベル、皆さまを大広間に案内して差し上げなさい。
私も後から向かいますので。それまで、頼みましたよ」
「は、はい! では、皆さんこちらへ……」
イザベルに導かれ、大広間に向かうこととなった。
しかし──
「すみません、ルシアーノさん。少しお話でもよろしいですか?」
俺だけ、なぜか呼び止められてしまった。
「ええ……大丈夫ですよ。すまんレティ、先に行っていてくれ」
「わかった……けど、本当に一人で大丈夫?」
ルクレツィアは心配そうな目で俺を見る。
「大丈夫だ。俺もすぐに行くから、二人をよろしくな」
そう言って見送った。
内心では、かなり警戒している。
「さて、あそこのベンチに座りませんか」
ローレンは、庭の端にあるベンチを指さす。
半円形の屋根がついていて、ベンチがあるだけの簡易的な休憩所って感じだ。
「それで……急に呼び止めてしまってすみません」
「いえ。それで、僕と話したいとは、どういうことでしょうか?」
「はははっ……お忘れですかな、ルシアーノさん……いや、ルシアンくん
私ですよ、ほら、君が修道院を卒業した日、父君とあいさつに来てくれたではありませんか」
遠い記憶が呼び起こされる。
「え!? あの時の爺さん!?」
あれは、卒業の日の出来事だったな。
父に連れられて、帝都でも有名な審問官に挨拶をしに伺った記憶。
なぜ忘れていたのだろうか。
この人は、帝都でも五本の指に入ると言われた審問官の一人……ローレン=セリウス高位司祭様だ。
「……。」
「そう警戒しないでください。私はすでに、審問官としての職務は引退して、このアンネル教王国で余生を過ごす、ただの老人ですよ」
(ただの老人……ね。そんな話を誰が信じるんだよ)
気づけば、すでにこの休憩所を取り囲むように聖魔法による結界が出来上がっている。
精度も練度も、はるかに俺の実力以上だ。
(これが高位司祭の実力か)
ルクレツィア達はすでに建物の中に消えていた。
いや、ルクレツィアがいなくなったから、結界を張ったと言った方が正しいのかもしれない。
「さて、改めて聞きますが──」
背中を冷やされた汗が伝う。
手が震える。
「なぜ、審問官である君が、魔女と知り合いなのだね?」
静かな声の裏の強烈な敵意──これはもう殺意だ。
俺の手は完全に固まっている。動かす隙さえ無いほどに、空気が張り詰めている。
もし仮に動かせたとしても、愛銃はフリント・ロック型だ。
(魔力を込める時間は……稼げないよな)
この距離ではそもそも、銃口を向けることすら困難かもしれない。
そこまで見越して、俺を誘い出したのだ。
「ふぅ……。俺の負けですね。この状況では、俺は何もできないですよ」
「若い割にはずいぶん潔いですね。
もちろん、きちんと話してくれるのでしょうね?」
「えぇ、話しますよ。話さないと開放してくれないでしょう」
観念した俺は、これまでのことを話した。
仕事で廃教会に向かったこと。そこで一度死んだこと。
そして、ルクレツィアに生き返らせてもらったこと。
今日、この教会を訪れた目的まですべてだ。
「ふむ……。君はもう、教会の敵になったという認識でよいのですね?」
「不本意ながら、俺はもう普通の人間じゃないですからね」
「そうですか」
ああ、これから俺はどうなるのだろうか。
ルクレツィアは──まぁ、アイツは強いし、何とか逃げ切れるだろう……。
そんな考えばかり浮かぶ。
「ローレン司祭、これから俺のことをどうしますか?
神敵として教会に突き出しますか?
それとも、ご自身の手で俺に天誅を下されますか?」
精一杯の強がりだった。今は、話し続けないと俺の理性が泣き叫びそうになるのだ。
一度は経験があるとはいえ、死ぬのは恐ろしい。次は生き返れないかもしれない。
ルクレツィアが俺をもう一度助けるとは限らないからだ。
むしろ、ローレンと戦うよりも、よっぽど俺を見捨てる方が合理的だ。
「……何を勘違いしておられるので?
先ほども言いましたが、私はもう、ただの余生を穏やかに過ごす老人に過ぎない。
私には君に何かするつもりはないですとも」
「……ふぇ?」
俺の口から、何とも間抜けな声が漏れ出た。
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