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15話 妹を助けてくれ

 さて、魔道具屋から出ればすでに日は頭上に上り、腹も減る時間になっていた。

 

 「ルクレツィアは……まぁ、どこかで何か食べてるだろ」


 念のためにと、ルクレツィアにも金は持たせている。

 晩飯代も賄えるかはわからないが、昼飯くらいは大丈夫だろう。


 そんなことを思いながら、俺は魔導具屋の裏手の路地を歩くのだ。

 

 ──おいっ……! 無視するな、お前だよ。

 

 まさかと思い、振り返れば腰に手を当て仁王立ちする男がいた。

 

 「……僕のことですかね?」


 相手は物騒にも、刀を腰にぶら下げている。

 間違いない、悪魔狩り(ハンター)だ。俺の経験がそう判断した。


 「そうだよ! お前だよ!」


 「はぁあ……。で、なんでしょうか?」


 俺のため息交じりの返答に、男は少し熱くなる。


 「お前、今そこの店から出てきたよな?」


 「……そうですが、何か?」


 追剥ぎの類だろうか。

 男は俺の返答を聞くなり、近づいてきた。


 「ちょっ……!?」

 

 俺が腰の銃に手をかけようとした瞬間、男は一直線に飛び込んできたのだ。


 「──っ!?」


 ほんの一瞬。あと一秒でも遅かったら、俺の銃は間違いなくこの男を撃っていた。

 しかし、男は俺の目の前で急にしゃがみ込み……というか、土下座をしたのだ。


 「ん!?」


 あまりの予想外の出来事に俺の思考は固まり、当然だが手も思い留まった。


 「頼む!」

 

 そして男は俺の反応など気にもせず、懇願し始めた。


 「あの店から出てきたってことは、あんた……魔物狩り(ハンター)か、審問官だよな!?

 俺の妹が、最近変なんだ……。だから、頼む!

 俺と一緒に来てくれないか?」


 話が全く呑み込めない。


 「あの~……。すみませんが、僕とどこかで会ったことがありますか?」

 

 「いや! 無い! だけど、頼む!」


 「えっと~……。とりあえず、場所を変えませんか……?」


 裏路地とはいえ、人目はある。

 大の大人が路地で土下座を披露しているのだ。

 そんな好奇な光景を見ない振りなどできないだろう。いつの間にか、路地のどちら側にも人が集まっていたのだ。


 「えっと……それで、どうしましたか?」


 俺たちはとりあえず、広場に移動した。

 植木の石垣に腰を掛けて、話だけでも聞いてやろうと思ったのだ。


 「突然ですまない。助けてほしいのは、俺の妹なんだ」


 「はい」


 「妹の名前はミリアと言って、歳は十二で、明るく優しい子だった。

 そんな妹が最近、頻繁に教会に足を運ぶようになったんだ」


 (うーん……。兄に黙って、教会に入信したって雰囲気じゃなさそうだな……)


 「教会で何をしているのか問いただしても、何も話してくれなくて。

 それで、どうしても心配で隠れてついて行ってみたんだ」


 どうやら、この男は妹さんが大そう大切なようだ。

 悪い奴ではなさそうだ。


 「そしたら妹のやつ、その教会の司祭に何かを渡していて……」


 (金か、薬か……禁止指定物か……。そんな口ぶりだな)

 

 「つかぬことをお聞きしますが、妹さんが教会に通い始めたのはいつ頃からですか?」


 この質問には、とても大事な意味がある。

 宗教とは不思議なもので、元審問官だった俺が言うのもなんだが、関われば関わるほど泥沼のようにズブズブとはまり込んでしまうのだ。


 「二週間くらいだ……。

 そうだ、確かこの街に小人が現れるようになった頃からだ!

 もしかしてあの司祭、妹を悪魔の供物にするつもりなのか!?」


 「なるほど……。必ずしも、その小人と無関係とは言えませんけど、今は情報が少な過ぎますね」


 「むむむぅ……」


 そういえば、彼の名前を聞いてなかったな。


 「えっと、なんて呼んだらいいですか?

 僕はルシアーノと言います」


 当然だが、ここでも偽名を使わせてもらう。

 それに乗り掛かった船だ、妹さんの真相について、少しの助力はしてやろう。


 「あぁ、そういえば名乗っていなかったな。

 俺は、カイル=アンネルと言う。よろしくな、ルシアーノ!」


 ……さて、つい先ほど、この方のお手伝いでもできればと思ったが、前言撤回させて頂こうと思う。

 

 「失礼ですが……王太子様で……?」


 「そうだ! 俺がこの国の王の息子、カイル王太子だ! よろしくな、ルシアーノ!」


 二回もよろしくと言われたが、俄然無理である。

 

 「すみません。そういえば僕、この後予定がありましてー……」


 「なに!? 俺の妹よりも大事な予定なのか?」


 (ああ、どうしてこうなったんだ……!)


 俺は心の中で悲痛な叫びを上げた。




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