14話 真価の宝珠を買わされる
アンネル教王国、滞在二日目。ルクレツィアは昨日に引き続き、ご機嫌斜めだ。
晩飯はしっかり食べてたし、体調には問題なさそうで安心だ。
「ルシアン、今日は私とは別行動ね」
朝の身支度を終え、少しの休息時間に突然ルクレツィアが話しかけてきた。
宣戦布告のような剣幕で、だ。
「どうした、何かやりたいことでもあるのか?」
「ルシアンには教えない!」
バタンっと扉が閉められ、俺は一人、部屋に取り残された。
「さて、俺も買い物に行くかな……」
昨日はあのまま、引きずられるように宿に入ったため、俺の当初の目的──魔道具屋には行けていないのだ。
今日はせっかく一人なのだ。少しくらいゆっくり買い物させてもらおう。
そう思って俺は部屋を出た。
──なぁ、聞いたかよ?
あぁ、アレだろ?……また出たって話じゃないか。
受付で、何やらハンターらしき身なりの男達が話しているのが聞こえてくる。
なるほど……。
どうやら最近、この街にはとある悪魔が出没しているらしい。
そういえば、イオナがこの街に来たのも仕事だと話していたな。
『バカでかい本を大事に持ち歩いてるって話だぞ』
『そうそう! 小人のくせに、何が買いてあるんだろうなって皆気になってるぜ』
『それによぉ──』
(なにやら盛り上がっているな……)
まぁ、俺は人の話を盗み聞きする趣味はないので、足早に宿を出る。
それにしても……
「小人、か……」
なにも、小人自体は珍しくない。
むしろ最も頻繁に目撃される悪魔の一種だ。
「本ね……。まぁ、気にならなくはないけど、問題はそれだけじゃないんだよな〜……」
小人ってのは、実に種類が多い悪魔だ。
神の眷属である精霊の仲間だって言い伝えもあるくらい、昔から人里に現れるらしい。
「ルクレツィアもいないし、弾も……持ち金的に心許ないしな
変に関わるのは、やめとこう」
──ギィぃぃぃっっ……ツっ……。
魔道具屋の扉は少し軋んでいた。
木の扉の甲高い音は嫌でも、ルクレツィアと出会った教会を思い出させる。
「……らっしゃい」
店の奥から、ローブを羽織った老人が静かに現れた。
「おっ……!? おぉ……」
なんとも言い表しにくいその佇まいに、ちょっとビビったが……。そんな俺に構うことなく、店主は受付の椅子に腰掛けた。
「あのー……すみません」
「はい……」
「銀の銃弾を買いたいんですが……ありますか?」
店主はこれまた何も言わず、静かに店の裏に戻って行く。帰ってきたと思ったら、手には箱が持たれていた。
「……銀貨、二枚」
「え? あ、あぁ……えっと……はい……」
俺は店主にお代を渡して、箱を受け取る。
中身は俺の注文通りの品だった。
「……まいど」
「……。」
そしてまた、店の中に沈黙が訪れる。
俺としてはひとまずの目的は達成なのだが、せっかくなら店内を見て回ろう──そう思った。
「……ごゆっくり」
そんな俺の様子を確認してから、また店主は店の奥に消えた。
「……あれが、噂の小人なんじゃないか……?」
ちょっと失礼かもだが、店主の背丈は子供程度だし、あの雰囲気には人間らしさが感じられないのだ。
つまり、俺は悪くないのである。
「さて、気を取り直して……」
俺はゆっくりと、ひとり静かに店内を見て回る。
商品は珍しい物も置いてあり、棚ごとに種類を分けて、丁寧に並べられている。
「なんだ……これ?」
その棚の中に、一つ異彩を放つ品が置いてあり、つい手にとってみた。
「……それは、東洋の島に伝わる魔道具です」
「──ッ!?」
音もなく後ろに立ち、突然話しかけられた。
驚いた弾みで、俺は近くの棚にぶつかる。
ガタガタっと棚が揺れるが、幸いなことに品物に傷は無さそうだ。
ほっと安堵の息を吐き、改めて店主にこの魔道具について話を聞く。
「何ができる魔道具なんですか?」
「……お客さん、東洋に行ったことは?」
「いえ……ないですけど……」
「……そうですか」
なにか期待を裏切るような事をしてしまったのだろか。
どこか店主が残念そうにしている。
「……東洋の国には、魔女が国を支配している所があるらしいんです。
これはその国の魔道具──名を『真価の宝珠』と言います……」
「真価の宝珠……ですか」
それは、片手に収まる宝玉だった。
淡い緑の美しい丸い球体で、半透明の石の中央で雲のように濃淡それぞれの色が揺れている。
「それで、これはいったい……」
「真価……、つまり物事の本質を見定める宝玉……そう言い伝えられています」
詰まる所、嘘を見抜く魔道具らしい。
でも、それは自分自身の嘘──つまり、困難にぶつかった時、自分の信念を曲げていないかを判断してくれる力があるという。
「……銀貨、三枚」
これはもう、買わざるを得ないって感じだ。
俺の懐事情は、冬のように冷たくなっている。
(早く帰るべきだったな……)
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