13話 友の視点では?
沈黙が辛くないのは、相手がイオナだからだろう。
なんだかんだでイオナとは、たまに教会で会えば話をする仲だった。
そんな彼女は、俺の考えがまとまるのを待ってくれているように見える。
「だめだ、思い出せん。
昔の俺って、周りから見てどんな感じだったんだ?」
修道院時代──世間ではいわゆる学生期間ってやつだが、俺の自己評価でいえば、良くも悪くも目立たないやつだった気がする。
代々、教会に勤める異端者審問官の家系ってだけで、特に目立つことも無く、成績だって中の中程度だった。
そんな俺のことを、イオナにはどんな風に見えていたのだろうか。恥ずかしいが気にはなる。
「まぁ、あれだね……。
ルシアンは覚えてないかもだけどさ、一回うちの修道院で、教務担当の司祭様が修道女に手を出すって事件あったじゃん?」
言われてみれば、そんな事もあった気がする……そんな程度の出来事だ。
「あれって、実は私の親友だった子なんだよね……」
なんだか、重たい話が始まりそうな予感がした。
俺は、とりあえず追加のコーヒーを頼み、これからの長話に腰を据えて聞く姿勢を整える。
「あの事件ってさ、結局司祭様が破門になったじゃない?」
(じゃない?って聞かれても……そうだったのか)
「で、みんな一時期、大人って汚いって盛り上がったじゃん。
でも、ルシアンだけは周囲のそういう雰囲気に流されず、どっちでもいいーって感じだったじゃない」
あー……ここまで聞いて何と無く、俺の記憶の奥底から当時の出来事が思い起こされる。
たしかアレだ。
実地試験て名目の、遠足中の出来事だったはずだ。
なんか、女子達が騒いでたっけ……。
そんな事もあったな。
「あの時は凄かったんだから。あの子、モテてたでしょ?
だから、男子まで騒いじゃってみんなで司祭様を悪く言う流れだったよね」
そうだそうだ。
でも──真実は違った。
「たしか、ミリー=エラさんだったっけ……?
アレって、彼女の方が評価点欲しさに司祭様に言い寄ったんだよな?」
「そうそう!
でもさ、やっぱり私達って仲が良い人の味方になっちゃうじゃない?」
「そりゃあ、司祭様と同期の仲間だったら……同期の肩を持つよな」
「うん。だから、みんな司祭様を一方的に攻撃しちゃってた。
だけど、ルシアンだけは違ったよね」
「まぁ、俺はそこまでその件について知らなかったからな」
当時の俺はそんなことよりも、俺自身の将来に不安があったのだ。
「そうだね。でも、そんなところが良かったんだよ。
たぶん、それが審問官としての素質ってやつなんだろうなって、当時の私は思ったよ」
「そうか……」
「うん。だからさ、ルシアンがルクレツィアさんと一緒に逃げるって選択をしたのも、私からしたらそんなに驚くことはないかな~」
「ルクレツィアは、魔女だぞ?」
「だから?
ルシアンはそんなこと気にしないでしょ?
”自分の信じたこと”しか信じないじゃん」
(……そう、かもな)
──イオナは真っすぐに俺を見てくれる。
「なぁ?」
「なに?」
──だからこそ、ちゃんと確認したいことがある。
「もしかしてさ……」
俺が言おうとした瞬間、ルクレツィアが慌てた様子で店に飛び込んできた。
「ねぇ!? 近いっ!」
どうやら、コソコソと盗み見をしていたみたいだ。
そんなルクレツィアに、イオナがくすりと笑い、投げかける。
「大丈夫。奪ったりしないよ?
ルシアンのこと、ただの友達だと思ってるから」
「むぅぅぅ……」
ルクレツィアが怪訝な顔をしている。
「あははは! ルシアン、この子おもしろいね」
イオナは声を大きくして笑っている。
そして、耳打ちするような声で、でも俺にも聞こえるギリギリの大きさで話した。
「もし、私が本気でルシアンのこと本気で手に入れるつもりなら
──もっと早くから仲良くしてたよ」
どういう意味だろうか?
そんなことを考える間もなく、ルクレツィアが俺の手を無理やり引く。
「おいっ……ちょっ……!? あぁっ、もう!
じゃあなイオナ! またな!」
それだけ言い残して俺は店を去ることになった。
俺たちを見送るイオナは、いつもと変わらない様子で手をひらひらと振っていた。
「──ねぇ、ルシアン! 私言ったよね!?」
店を出てからずっとルクレツィアはご機嫌斜めなご様子で……。
まさに取り付く島もないのだ。
「君はもう、私のものなのに……」
すっとこんなことをブツブツと言っている。
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