10話 アンネル教王国
「お待たせしてすみません。よろしくお願いします」
そう言って俺とルクレツィアは、バンクホルンさんの馬車の荷台に乗り込む。
「それでは、行きますよ」
ムチが軽く馬を叩き走り出す。揺れが心地よく、天気が良いのもあって風が気持ちいい。
「ルシアーノ、楽しいね」
ルクレツィアは荷台の纏から顔を出して外の景色に目を輝かせている。
「あんまり乗り出すと落ちるぞ」
「へいき、へいき〜」
「楽しそうでなによりだよ」
俺は待ち合わせの地図を開いて、これからの旅路を指で辿る。
「アンネル教王国は、山と山に挟まれた土地に築いた街だ。山間都市を繋ぐ重要な都市で、結構商業が栄えてるらしいぞ。
そこでこれからの旅に必要そうな物を買おう──って、聞いてるのかレティ?」
「んー? なにー? 風の音で聞こえなーい」
無邪気な様子の彼女が、魔女ですなんて、誰が信じれるだろうか。
もしかしたら、普通にしてればバレないのでは?とすら考えてしまう。
「レティは何か、買わないといけない物ないのか?」
「べつにー。そんなに今は欲しい物ないかな〜」
「俺の買い物に付き合うでいいか?」
「なになに?」
ルクレツィアが急にズリ寄ってくる。
「デートのお誘いかな?」
「やめてくれ。憲兵さんに、妹だと思われるのが目に見えてる」
「案外、誘拐犯と間違われちゃうかもよー?」
「……。」
否定は……できないな。
「ちょっとルシアーノ!? 私はこう見えても”お姉さん”なんだけど!!」
ルクレツィアの悲痛な叫びが、あたたかな晴れ空に響いていた。
──とまれ!
しばらくして、ついに俺たちは目的地の【アンネル教王国】に到着した。
入国時に、門兵さんが荷台のチェックを行う。密輸や密入国を防ぐためらしかった。
(俺ってまだ、指名手配とかされてないよな……?)
一抹の不安を抱えていたが、入国審査は特に問題なく、すんなりと通してもらえた。
「ここまで乗せていただき、本当にありがとうございました」
「いえいえ、よろしければ店の方にも遊びに来てくださいね。それじゃあ……」
そう言ってバンクホルンさんの馬車が遠ざかっていく。どうやら街の中央に自分のお店があるそうだ。メインは服装品だが、旅の道具全般が揃うと自慢げに話していた。
審問官みたいな職の人々に人気なのだそうだ。
(そういえば、俺が買ったこの服も生地の伸びが良くて動きやすい気がする)
こりゃあ、魔物狩り達にも人気になるわけだ、と内心一人で納得していると──
「ルシアーノ、私おなかすいた」
ルクレツィアはもう、街を歩きたくてウズウズしているみたいだ。
「そうだな。宿探しは後回しにして、先にどこかで飯でも食べるか」
まだ街の入り口程度のところだが、すでに人でにぎわっている。
通りの奥には出店が並び、なんとも美味しそうな匂いが漂うのだ。
「いい街だな。まぁ、こんだけ人がいれば、そう簡単に俺たちの身分がバレることもないか……」
「ほらっ! 行くよ、ルシアーノ!」
ルクレツィアが俺の手を引いて歩く。
キョロキョロと辺りを見回しながら、どれを食べるか真剣に悩んでいるのだ。
そうして悩んだ挙句、肉串を二本買って食べながら街を探索することにした。
「本当にこの街はきれいだね」
彼女のこれまでの人生において、今日ほど観光を楽しんだ日はなかったのだろう。
そう感じさせるに十分なほどにルクレツィアは同じ言葉を口にするのだ。
「なぁ、ルクレツィア」
「ん?」
「俺はお前と旅ができて楽しいぞ」
俺の言葉にルクレツィアは何も答えない。
ただ、満面の笑みで振り返るだけだ。
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