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下村心境2

「それが良いでしょう。それで、夫婦関係には磨美さんが証言に立つんですか? 立てば難しいでしょう」

「そうなれば、愛なき心中事件が成立するんでしょう」

「それは下村さんがどれだけ後追い自殺を考えていたかによるでしょう」

「分からない、それは。もうあの時は俺も死ぬんだと言い聞かせて行動した。それが自分に取ってどれほどの痛みを身体に伴うのか周りが落ち着いて冷静になって初めて考えた。此の身勝手な考え中に、弁護士には当時の状況を分析して欲しいと言われても、無我夢中でみんな死ぬんだ。俺も死ぬんだ。死ぬんだ死ぬんだと、包丁を持って追いかけて子供には首を押さえ続けたんだ」

 此処で下村はテーブルに置いた両手を起こして頭を抱えた。 

「そこまで考えが及ばなかった」

「それは自殺の方法ですか?」

「そうです」

 彼は項垂れた頭を起こして藤波に答えた。

「下村さんが思うのも当然でしょう。気持ちにそこまで考える余裕があれば別な方法を探ったでしょう。でも、事件は切羽詰まってどうしょうもない動機で起こります。起こり始めに、理性が入る余地はない。入るとすれば犯行が終わった時ですから、もう手の着けようがないでしょう」

 そうでしょう、と更に同意を促したが下村はまた頭を抱えた。       「子供は可愛いかったでしょう」

 間を取って訊ねると彼はまた真面に向いてくれた。

「それはもう、とくに下の二人、美澄と孝史は良く俺に懐いて仕事にも熱が入った」

「真苗ちゃんはどうなんです」

「あの子は性格が深詠子に似て可愛げがなかった。それに引き替え真澄は顔がよく似て可愛かった」

「真苗ちゃんは可愛くなかったんですか」



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