下村の心境1
留置所の下村に二回目の面会に行く。前回は初対面で面接時間のほとんどを雰囲気作りに使って、実質的な話は何も進まなかった。
下村の無理心中をどう思うか、可奈子と磨美の共通点は一家を道連れにするのは間違いだ。二人に関わらず同意を求めば大半の妻は反対する。特に扶養している子供は道連れにされる。問題は真苗ちゃんぐらいから下の子は、遺すのが不憫と考える親が多い。深詠子のように自己主張の強い女性は、全て子供の歳に関係なく反対する。この場合、夫は家族には何の相談もなく後を追い回してでも実行するだろう。現場に居た真苗ちゃんの話から下村がそのタイプで、その過程を聞き出す強い決意で臨んだ。
面接場所入って来た下村の顔を見るとかなり落ち込んで、まだそこまで話を持って行くには早すぎと悟った。弁護士との面談では先ほどまで、心中事件の動機に、どれだけ妻からの離婚が影響したか聞かれた。
「それでどうしたんですか」
「弁護士はそこを集中的に突けば、情状酌量の余地が広がると言われた」
「それで矢張り動揺したのですか」
「最初はそんな物よりもっと大きな絶望感ですよ。それは取るに足らない動機だと言えば、弁護士は『あなたのお気持ちは分かりますが、事業の失敗から離婚を持ち掛けけられ、仕事に行き詰まらなければ離婚を持ち出さなかったのですね』と念を押され『普通そう謂うときは妻が夫を支える。この逆切れを実証できれば裁判官の印象も変わる』それで妻との仲はどうだったか聞かれたが、今まで仕事に追われて考えたことがなかった。そこへあなたが前回は妻との成り染めを聞かれて弁護士の質問には否定してしまった」
この人はまだ悔いている。
「情状酌量ですが。どれぐらいの開きがあるんです」
「弁護士は最低でも三年、上手く認められれば七年は刑が軽くなるそうです。でもこればっかりは一方的にあたしの方からは求めませんが、双方が色んな人を証言台に参考人として立てます。それらの人の証言と真っ向から勝負する自信が有りません。正直に答えて判断して貰うつもりです」




