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磨美に訊く3

 電車内で磨美の言った甲斐性の意味を仕切りに考えた。下村には家族を養う甲斐性があった。それは順調な仕事の裏付けが有って成り立つ。常にどん底を這い回る藤波には元からそんなものはない。絶望感が付き纏うだけに、何とかその場を凌げ、逃るすべを考えるのに精一杯だった。一方、大きな挫折のない下村はどうだろう。失敗に対する免疫の無い彼は、絶望感は死と直結して、築いた事業にとどまらず家族に対しても抱いた。家族は彼の収入で支えても、成長する家族の心は支えられない。別だと気付いてない。そこにあの心中事件の悲劇が起こった。それをこれから下村の精神を問い詰めて明らかにしたい。

 藤波は店に着くと、可奈子が真苗と一緒に出迎えてくれた。実家の親が談判に来てから可奈子は、式も挙げずに実家に戻らず此処に居着いた晩から店に出てくれた。当然、常連客からは奇異に見られた。しかし彼らにも思い当たる節がある。遠方から電車に乗って来るやっさんと、年金額が足らずに未だに工事現場で交通整理に当たる山崎のじいさん以外は、親父の代からこの店に徒歩で来てる連中だ。彼らは可奈子の喫茶店にも早朝の開店時にたまに寄るが、居酒屋には、この日の開店時に初めて見かけて驚いた。

 なんや成るようにして成った出戻りと行き遅れか、と冷やかされた。顔見知りだけに可奈子も此の店に定着するのに時間が掛からなかった。更に常連客を驚かせたのは真苗ちゃんの存在だ。最初は可奈子を見たとき以上に驚愕した。それ以上にご近所さんの手前なのか、どっちの子供かと詮索する者は常連客には居ない。馴染みのない客からは色々と問い詰められた。居合わせた常連客から「まあまあ、そんな野暮なこと訊かんとわしの奢りや一杯のみ」とホローしてくれた。後から今の一杯の代金は二人のご祝儀やと、余計な噂が収まるまでいつも追加料金を払ってくれた。それより常連客には、可奈子が作る料理と磨美から教わった南蛮漬けが目当で、可奈子と真苗ちゃんについては人生の年季が入って余計なことは聞かない。と謂うか、老後の楽しみの食い意地が張っただけだ。


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