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可奈子6

「今日はちょっとドライブできるのかしら」

「軽トラだぞ、これでドライブ気分はないだろう」

「たまにはこんな車もいいんじゃないの」

「たまにか。新婚時代のマイカーはなんだ」

 まあね、と言ってレクサスと答えて驚いた。それじゃ、こいつとは月とすっぽんだと車に乗り込んだ。彼女も気兼ねなく乗って来た。

「レクサスとこいつでは窮屈だろう」

「乗り心地は別もの。彼の家は広いけど気持ちが窮屈なのよ」

 学生時代まで彼女は、言うだけ言うて清々して家に帰った。結婚して嫁いだ相手と四六時中家の中に居れば、たとえレクサスで出掛けても気分は悪い。

「あいつと一緒に暮らして判ったのよ。何でも言ってしまえばおしまいって」

 悟るのが遅い。俺なんか小学生の頃からお前を相手にした所為せいか、一度腹の中で言う前に吟味するコツを憶えてしまった。

 車は駐車場を出て、いつも知った狭い道を走り出した。

「可奈子。お前、彼奴に惚れたんでなく彼奴の家と車に憧れたんだろう」

 まあその器量なら靡なびくだろうが、喋り出すと直ぐにメッキがはげてしまう。

「行儀作法に料理や茶道。学校では法然の教えを請うても、きちっとした躾は親が子供時分に教えないと身に付かない、その典型がお前だなあ」

 子供時分は啓一朗にこんな説教されればむかついてののしった。今は植物が水を吸収するように スッと身体の中に溶け込んでも、彼に云う言葉は昔のままだ。

「うるさいッ、余計なお世話だ」

 昔と変わらんと、彼は笑ってハンドルを握っていた。

「今日は何を仕入れるの」

「常連の一人が金目鯛を喰いたいって言っていたな」

「あれは高いでしょう」

 それを言うと、気にするなと言われた。全く老い先短い連中は、いつも末期の食事だと思って俺の店に顔を出している。

「じゃあ、いつも現金払い」

「ああ、それを言うと香典にして少しは返せとのたまうんだ」

 あ〜あ、何て云う店なの、お先真っ暗と可奈子は嘆いた。



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