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下村に訊く2

 彼が今まで面会を求めたのは弁護士だけに、それ以外の聞き慣れない質問に暫く戸惑った。会社を辞職して、独立した仕事で華やかな人生の道を歩んでいても、此処でも彼には人望がなかった。留置場まで弁護士以外で面会に来たのは藤波ひとりだ。下村の親は年が明けてもっとあとになるだけに、此処まで面会に来る人がいると、気持ちが昂揚した。此処で彼は印象を悪くさせたくないと藤波の要望に応えた。下村は孤独に耐えきれずに死のうとして死にきれなかった。いっときの醒め切った彼の顔からは、死に損なった絶望感が窺えた。

 最初は死ぬつもりで行動を起こさなければ、この男に深詠子や我が子二人をあやめる根性などわっていない。此の面構つらがまえだとおそらくハエ一匹殺せないんじゃないか。それがどう豹変すれば、あんな事件を引き起こせるのか。此の男を見て、恨みから真相究明に変わるのに、そう時間が掛からなかった。プロポーズされて、ひょっとして、この人なら俺より気が楽だと深詠子は思ったんじゃないか。

「どうですか、少しは落ち着かれましたか」

 最初のひと言は唐突すぎたと質問を替えた。これで下村もひと息つけたようだ。

「深詠子の昔の恋人だと聞いたんですが……」

「ああ、そうです。申請書に書かれた通りで、それで会う気になったんでしょう」

「正直言って、面会は弁護士ばかりで、会えば事件の話ばかりで、まあ向こうもそれで来ているのは解りますが……」

「でも、私が伺いたいのも似たようなものですよ」

「分かりました。すいません。面会時間は長くないので用件を言って下さい」

「う〜ん、私が聞きたいのは事件そのものよりも、深詠子に関する事だけです」

「いいですよ、なんなりと」

「磨美さんご存じですか?」

「同じ会社に居ましたから、美詠子と付き合う前から良く知ってます」

「磨美さんから聴きました。一目惚れだそうですね」



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