再出発3
啓ちゃんが今まで独身でいたが、今回の葬儀で過去が判り父は気の毒がった。
「それじゃあ、早う結婚して店を盛り立てなあかんやろう」
「そんなん家で言わんと直接本人に言えば」と嗾けた。
父は意気揚々と行ったが帰って来ると、またまた可奈子に食って掛かられた。父は面と向かえば子供時分から知ってる相手だけに、あとは察しろと帰ってきた。
「そう言われても、なんのこっちゃ分からんよ」
「そうでしょう」
父は啓ちゃんのお父さんとも昔から、喧嘩ばかりしてるくせに、竹馬の友だと訳の分からん事を言ってる。竹馬の友? も五年前に亡くなって、あたしも実家へ戻って、それからや。やいのやいのと藤波との再婚を父は勧めた。
「それでお父さん、来たのか」
「再婚が無理なら真苗ちゃん貰ってこい、何て言い出すのよ」
何を考えてるのか。要は早う孫が欲しいのよ。そこまで言われて、やっと藤波も察しがついた。
「俺は良いけど」
「どう良いのよ!」
好きなら好きとハッキリしろと言いたげだ。
「可奈子の気持ち次第だと言ってるんだ」
あっ、そう。と引き下がった。真苗ちゃんを上手くあやしていただけに、それだけかと気落ちした。
「判ったわ、あの子の面倒をみれば良いのね」
半分以上はやけくそだ。
「まあ、そうだけれど。真苗ちゃんもそうだけれど、あのメニューに慣れた此処の常連客の胃袋を何とかしたくて……」
「エッ! あたしを何だと思ってるの!」
可奈子の顔色が急に変わり、藤波は慌てて弁解した。
「なんっちゃってね。一遍言ってみたかったの」
と可奈子は子供時分と変わらない。ヤッホー、とカウンターの端に居る真苗の声がした。
エッ、なに、あの子、と可奈子が驚いた。真苗は矢っ張り深詠子の性格そのままだと藤波は思った。




