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再出発2

「あの丸椅子はガード下の靴磨きのように大人が座るもので、真苗ちゃんには落っこちそうで危ないと可奈子に言われたんだ、分かるか」

「ウン、でもガード下の靴磨きってなにぃ」

 しまった余計な事を言った。面倒くさいのを察したのか「だって足が着かないんだもん」と切り替えた。恐ろしく気の利く子だ。  

 あれから直ぐに可奈子とフロアー一杯にインテリア商品と一緒に並ぶ大型の家具店で決めた椅子だ。これなら真苗の足が着かなくても引っ繰り返る心配がない。問題は先代から前の椅子に親しんだ常連客はもっと驚くだろう。凝った料理の次は此の椅子か。こんな居酒屋に肘掛け椅子じゃ、店そのものを改装せんと合わんと言われそうだ。案の定、常連客には散々冷やかされた。

 椅子を替えたお陰で真苗ちゃんにも安心して昼間も店に居られる。

 可奈子の料理がないと常連客から「なんやもうあのメニューは終わりか」と言われて彼女には下ごしらえに雇った。

 朝は市場に仕入れに行き、その間は真苗が留守番をする。午後からは可奈子に来てもらい一緒に手伝ってもらう。

 料理の出し物が変わると常連客から「どないしたんや、まさか板前は雇えんやろ。誰か料理の上手い人に来てもらってるんか」と詮索された。適当に近所のおばさんやと誤魔化していた。その内に可奈子の実家が「出戻りにいつまで店の手伝いをやらせるんや」と談判に来た。可奈子の父は言うだけ言うてサッサと帰った。直ぐ後から可奈子が弁明に来た。

 真苗はさっそく新しい椅子が気に入って昼間は下の店でカウンターを机代わりにしている。可奈子の父と藤波の話には知らんぷりでいた真苗も、可奈子を見ると駆け寄った。 

「啓ちゃんとお話があるからゴメンね」

 と言うと、ウンと言って戻った。この辺は深詠子の躾けに感心するが、もっと子供らしさもあっていいと戸惑った。

「お父さん、来たでしょう」

「ああ、何だあれは『昼間だけ手伝わせてサッサと帰す、けしからん』なんてブツブツ言ったが、サッパリ意味が判らん」


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