再出発1
翌日からいつもと変わらない生活が戻った。いや大きく変わった。二階に下村の居間に設置した組み立ての簡易の祭壇を、ばらして運び設置した。幅が三十センチ長さが一メール程の真新しい二枚の白木の板を、上下二段に分けて取り付けた。上段が丁度座ると目の高さになった。下段には蝋燭立てがふたつ、線香立ての灰が入った香炉がひとつ。それと仏具セットでおりんがひとつ置かれている。
真苗はおりんの響きが良いのかよく鳴らした。これには合掌して線香を上げる時だけだと言い聞かせた。もうひとつ大きく変わったのは、結婚もしないのに真苗と謂う子が出来た。今まで気が付かなかったが、真苗は落ち着くとお絵描きをよくする。何もしないでゴロゴロしているとこれは目立った。
宿題はどうした。まだ日にちがあると呑気に構える。確かにまだ一か月はあるが、思い起こせば藤波もそうだった。思い切り遊んで期日が迫ると、もっと早くしたらと毎年後悔したにも拘わらず二日前に出来ると、此の感動が徒となって、以後は新学期前日に徹夜する。この子はどうなのか、深詠子の躾けに期待したい。いや、期待できそうだ。あの頃の藤波はそれでも夏休みの宿題が、今年は間に合うのか、ほんとに遊び呆けて良いんだろかと、一抹の不安が付き纏った。真苗はまだ小学校低学年で、そんな苦労は微塵も感じさせない。
「夏休みの宿題は独りでやるのか」
まだ無理だろう。深詠子が手伝ってると思ったが「お母ちゃんは見てるだけ」と言われて、同棲生活を始めた頃の彼女と変わらない。じゃあどうして別れたんだ。祭壇に祀られた深詠子に幾ら訊ねても手遅れだ。この子をじっくり観察して考えよう。先ずは一段落した処で、可奈子に指摘された店の椅子を見に行った。翌日には業者が注文した肘掛け付きの椅子を持ってきた。これには真苗ちゃんも、まさかこんなに早く取り替えるなんて、と驚いていた。




