深詠子戻る2
「真苗ちゃん欠伸してる。そりゃあ疲れるは。今朝は朝の早から下村さんが真苗ちゃんに喪主を押しつけてここまでずっとやから、あたし達以上にしんどいはずや」
「オイオイ、いつまで話てんのや。店の開店時間が迫ってくるやないか」
そうやそうや、と四人は葬儀屋が組み立てた簡易の祭壇をばらして遺骨と一緒に持って下村の家を出た。磨美さんは実家から圧力鍋を持ち出し、お年寄りに受ける料理をこれで作るそうだ。
「それ使うの難しいのに、何すんのそれで?」
「これだと数十分でひと晩以上漬けたぐらいになるの」
「それはないやろう」
「味付けで誤魔化して美味しい南蛮漬け作ったげる」
遺骨を持ってスーパーで買い物は出来ん。スーパー前に停めたタクシーに、真苗ちゃんを残してお母さんの番をしてもらう事にした。
三人は今日の居酒屋で出す食材を買って店に着いた。此の際、真苗ちゃんには枝豆をむしり取ってハサミで端を切って、塩水を入れたボールに入れる仕事をさせた。磨美さんには得意な料理を作ってもらった。鰊の南蛮漬けだが、急拵えで圧力鍋をかなり加圧した。それを磨美さんは市販の出汁と酢を上手く組み合わせて、二日かかって染み込むような味にしてくれた。
「これ何ちゅう料理?」
「いつも安い鰯を使ってるけど、まだ名前ないわ」
「カウンター後ろの壁に、お品書きを貼り出さんと、名無しでは話にならん」
「鰊の一夜漬けで良いんじゃないの」
「そのままんやなあ」
こんな感じで磨美さんは、結構煮付けも作って、可奈子もあり合わせで簡単なものを作ってくれた。二人は開店前に引き上げ、真苗ちゃんは枝豆が終わるとそのまま寝込んで二階へ担ぎ込んだ。定刻通り暖簾を表に掲げて、これで開店に間に合った。




