深詠子戻る1
二人の思い出を聞き終えた磨美と可奈子は、今一度遺骨に向かって手を合わせた。
藤波の深詠子に対する懺悔が終わった。深詠子の思いを此の子に伝え、育てるのが彼が彼女の苦労に応える道だ。
可奈子も真苗ちゃんに、お母さんの事が判って良かったと耳元で囁いた。当の真苗もやっとお父ちゃんとの整理がついた。これで何となくお母ちゃんが、何か有ればあの居酒屋へ行きなさいと言われた意味が朧気ながら知った。
「啓ちゃん、今日は平日やさかいあの老人クラブの店を開けんとあの人らの楽しみなくなる」
時計を見ると今から帰って開店準備しないと間に合わない。今日は市場へ仕入れに行ってない。さて今日の出し物は如何する。冷蔵庫にあるもんでやらな、しゃあないなあ。
「そうか、藤波さんとこはお店開けんとだめなのね」
「帰りにスーパーで買い物して、それで今日はなんとかしょう」
「お店閉められへんの」
「それ、うちも言うて見たけど、何やいきなり表に休みの貼り紙したら多分言われる『親父の代からやってる店や、もっともあの頃は奥さん居たから正月休み以外は無休やった。お前も早う嫁さんもらえ』と言われそうで、そんな貼り紙できひんのや」
「此処でごちゃごちゃ言うてても埒があかん。あたしも手伝う」
「エッ! 磨美さん店出るの。あそこはスナック違て居酒屋やでぇ」
「勘違いせんように、料理の下ごしらえしたら帰るわよ。それより此処は暫く空き家になるんやったら深詠子、如何する」
「啓ちゃんの店の二階に置くしかないでしょう」
「二階に置く場所ないわよ」
「エッ! あの店の二階はゴミ屋敷 ?」
「いや、その反対で何にもないんや」
「そうね、此の前二階で子供を遊ばせたけど何にもなかった」
「アッ、そうや、磨美さん、此の前あの店の二階へ行ったんや」
「行ったん違う。呼び出されたんや。深詠子のこと話してもらわないと真苗ちゃん預からへんて言われたさかいに行っただけや」




