可奈子5
「それもそうだ。あの当時の姫様が出家すると言って髪を切っても、今の君と同じ程度だ。それでも二十歳すぎまでショートカットで過ごした君は、これはこれで余程の気持ちの入れ替えがあっての事か」
「そうでなきゃあ嘘やん」
「それより今日はどう言う風の吹き回しで、手伝いもせずに実家の店を出たんだ。両親も後片付けの手伝いを期待しているのに」
「今日ぐらいいいのよ」
「何処がいいのか今も解らないが、君が五年掛けて言い争って敗れた相手には同情はしないが、君に繊細さを身に付けさせた事には感謝する」
「五年のバトルに敗れたのはあたしかも知れないのに、どうして相手の肩を持つような言い方をするんよ」
「別に相手を褒め称えてない。君の素性を磨きだしてくれたことにただ感謝しているだけさ、かぐや姫さん」
「さっき言った変人扱いのだるま大師のお返しにかぐや姫で返すなんて、あなたもあたしを自分に合わそうとするつもりなの」
「そんな大層なもんじゃないけど、別れた彼の怨霊が乗り移ったのかも知れん」
「それって元彼だった時の嫉妬かしら」
「いや怨霊だ。五年の我慢比べに心から尽きた者が、この世に放出した恨み節だ」
「恨み節? 何さそれッ」
と可奈子は藤波に突っかかる。
「そうッ、どうせ別れた相手は、嫉妬が積もり積もって変身した怨霊なんでしょうッ」
「それは凄まじい嫉妬の挙げ句に、振った相手はその怨霊となり、君の身辺に降り注ぐ。まさにこれが六条御息所なら情念の恋だ」
「じゃあ、あたしは悲恋に散る夕顔なのかしら。それにしてもあの生き霊は凄い嫉妬の塊そのものの怨霊よ」
「オイオイ、彼との新婚生活はそんな怨霊どうしの烈しいバトルだったんか」
エヘヘと彼女は笑った。
二人は親父の遺してくれた駐車場に入った。場所柄コインパーキングに比べて安いから常に満車だ。