深詠子の思い1
明智光秀の娘で細川家に嫁ぎ、切支丹の洗礼を受けたガラシャは、関ヶ原の前哨戦で大阪城下の屋敷で、三成の登城を拒んで自害した。降りかかる火の粉を死をもって払い除けた彼女の人生に、深詠子は共鳴しても、あやかる気はないようだ。
こんな遠い所まで来て、ぜひ知って欲しいと案内したが、簡単な説明だけで一切の私情はない。これからの二人の人生に、どうなのか藤波は思いあぐねた。
「この人は大きな功績を残してないが知る人ぞ知るで、別に啓一朗さんは知らなくてもどって事ないわよ。でも憶えておいて欲しい」
もとより藤波は控え目で、大袈裟に自分を見せる人じゃあないが最後のひと言は気になる。深詠子自身も男は騒ぎ立てるもんでなく、不言実行、男の喋りはみっともないと普段から言っている。
「お兄さんもそうなんですか」
「地元だからね。僕みたいにインテリでなくても、うちの殿様はどんな人かと誇りに思って歴史に興味を持つ。でも深詠子は気にしてないよ」
三人は車に戻った。君嶋にすればこんな遠い所に来て、お参りするのは本当に思い入れの強い人に限る。妹もそこを考えて案内すればいい。
此処に泊まるのならまだ時間はある。行きたい所があれば何処へでも行く。
南国よりも北国志向の強い藤波にすれば特にない。彼女はそれを見透かした。
「どうせ行くとこ、決めてないでしょう」
とお兄さんに玉名市にある温泉に行ってと催促した。せっかく来たのだから九州らしい観光地を案内してはと君嶋は提言した。
藤波が九州には馴染みがなく、知っても阿蘇ぐらいだ。阿蘇に行けば駆け足でも半日は掛かる。同じ行くのなら一日掛けてじっくり案内したい。実家には夕方までに行けば良く、丁度空いた時間に、これまた知る人ぞ知る温泉地を深詠子は案内する。
「これから温泉へ行くの?」




