深詠子を偲ぶ9
お城に到着して変わり果てた天守を見て深詠子は気落ちした。加藤清正が築城した此の城は「日本一のお城たい」と自慢していただけに掛ける言葉がなかった。
「大丈夫だ、天守も地震当時より今は少しはましになってる」
今までこんな気落ちした深詠子を見たこと無かっただけに、君嶋より藤波の方が心配した。君嶋も不安になって見るに堪えず直ぐ移動した。車が駐車場を出ると君嶋は後ろに乗る妹に「深詠子、何処へゆく?」と訊ねた。
「せっかく来たのだからこの人に見せたい所があるの」
深詠子は、隣の藤波に、いいでしょと肩を揺すられた。
「そう言われても、ここは知らないから君に任せる」
「それじゃあ、お兄さん、泰勝寺に此の人を連れて行きたいの」
うっ? とハンドルを持つ君嶋が「あそこは藩主のお墓だよ」と藤波に確認するように云った。藤波がエッ ! 怪訝そうに彼女を見た。いいから行ってと兄に催促した。しょうがねぇなあと謂う顔で了解した。
「そんな藩主だったお墓のある場所に入れるんですか?」
「あそこはお墓と言っても自然公園として市が整備して、一般の人も立ち入れますから心配はいらないわよぉ」
深詠子のモナリザのような微笑に引き摺り込まれて、藤波は此の笑顔には勝てず、お兄さんに任せた。
細川家墓所の泰勝寺跡は、木立の中にひっそりと佇んで、散策する公園としてはよく整備されてる。
深詠子は歴代藩主の墓には目もくれずに、ガラシャ夫人の墓所へ真っ先に案内した。
「あたしは此の人の生き方に感銘しているのよ。特に此の人の辞世の句は凄いと思う」
ガラシャ夫人のお墓を前にして、暫く誇らしげに彼女の功績を藤波に印象づけるように深詠子は語りだした。




