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深詠子を偲ぶ7

 朝、目覚めれば、隣に白い枕カバーを覆い尽くす黒髪に覆われた中に眠る深詠子を初めて見た。細くなだらかな瞼の付け根から真っ直ぐ鼻筋が伸びて、唇を静かに閉じて眠る。実に少女のような姿に見とれていると彼女が目を覚ました。

「わあー、大変。朝の用意をしなければ」

と飛び起き、此処から深詠子との新しい日々が始まる。深詠子との希望が叶ったが、あの上司との別れで見せた彼女の別な面から解るように波瀾に満ちていた。

 奥の居間で起き、洋室の三畳のキッチンテーブルに藤波のために朝食を用意する。トーストにハムエッグと紅茶も用意する。今まで間に合わずに抜かした朝食が、深詠子のお陰で毎日ここで食べられた。別に云った訳ではないが年上なのか、それとも惚れた弱みなのか、深詠子は率先してやってくれた。あれほど喜怒哀楽が烈しかったのが嘘のように、献身的に尽くしてくれる彼女の姿に、スッカリほだされて黙って見とれる。

「ねえ、啓一郎さん。早く食べないと遅刻するわよ。行って早々印象悪くするから急いでね」

 こう甘く囁かれて藤波は慌てて朝食を駆け込んだ。

「もう、バカね、喉詰めるわよ」

 深詠子は慌てて冷蔵庫から出した紙パックの牛乳を、コップに注いで紅茶の横に差し出した。藤波は牛乳を流し込むように朝食を終えると直ぐに仕度をした。忘れ物がないか彼女は玄関でチェックして送り出した。

 彼を見送ると朝食の後片付けをする。あの人を何とか早く人前に出せるようにしなくっちゃダメだと深詠子はコンビニのバイトに部屋を出た。

 藤波は歩いて製麺所に着き、午後の三時頃には仕事が終わる。深詠子も藤波に合わして夕方には終えるようにして、二人揃って近くのスーパーで買い物をして帰る。時間がずれた場合は近くのセルフ喫茶で待ち合わす。だいたい終わる時間が決まっていて、お互いの勤め先を結ぶ道で会う。




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