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深詠子を偲ぶ4

 アパートを追い払われると謂うより、居たたまれなくなって飛び出した。二階から階下の階段を下りたところで深詠子は立ち止まり、二階の彼の部屋を見上げている。藤波は彼女の両肩を支えて、行こうと促しても彼女は動かない。

「ここにいつまで居てもしゃあない、けど、泣くだけ泣いて気が済むのならそうすればいい」

「あの人が出て来たらどうするの ? また怒鳴られるわよ」

「まあ、僕はど突かれても大丈夫。君が残りたいのなら構わない」

「あの人は絶対手を出さないからその心配は要らないけど、あたしの為にあなたの居場所がなくなるわよ」

 目許に涙を留めて心配そうな顔付きだが、何処まで本気で泣いているのか判らなくなってきた。

「別に僕はどうなってもいいよ。それで君らが元の鞘に収まるのなら」

「ほんと? ほんとにそう思ってくれているの」

 頷くと彼女は意地悪そうに笑った。こうなると余計に泣いているのか笑っているのか妖しくなってきた。

「あたしの為に自分を犠牲にして、それじゃまるでピエロね」

「僕は君の道化師でいい。いや、二人のためにも、それに徹する」

「ばっかじゃないの」

 と濡れた目で凝視した。

「お馬鹿さんよ。そんなの嫌ッ」

 今度は寂しそうに呟き、涙を溢して真剣に云ってくる。目まぐるしく表情が変わり、何かを訴えている。

「真面目に聞くけど、本当にあの人が好きなのかい?」

 今度は急に無表情で数秒、藤波を凝視した。

「あなた、本当は道化師に徹するつもりはないんでしょ」

「君があの人とやり直せるのなら、それでいい」

 彼女の瞳が曇って、瞼が濡れて、涙が零れだした。エッ! 何でまた泣くの。いつも気の強い彼女が、あんなにメロメロになるなんて信じられない。




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