深詠子を偲ぶ3
そんなの嫌と言われても、なんとか仲直り出来ると言い聞かせて上司のアパートへ行った。
深詠子さんが会いたがっていると連れて来た。上司は二人を見て表情を変えずに受け入れてくれた。流石に藤波とは一ランク上の雰囲気が漂う住まいだ。
三人が座ると真っ先に深詠子がごめんなさいと謝った。
「ねえ、もう一度あなたとやり直したいの。お願いできますか?」
「どうやり直すって言うんだ」
「今までどおり藤波君と三人でわいわいやりたいの」
これを聞いて藤波は、何を言ってる。さっきあれほど僕は身を引くって云ったばかりなのに。何を聞いてるんだ。
彼は少し眉を寄せて「何しに来たんや」
と穏やかな口調で切り出してはいるが、胸の中は怒ってると解っても、肝心の深詠子は意に介せず「どうしてそんなことを言うの、どうして解ってくれないの」と藤波の肩に寄り掛かって泣き崩れる始末だ。
「僕の云ってることが解ってないがな !」
ついに怒りを発散させた。
「そんなことない、ちゃんと解ってる」
それでも彼女は目を真っ赤にして喋ってる。
「君は気違いかッ」
冷静に言われると真面に聞こえた。
「何でそんなこと言うのぅ」
深詠子は涙声から泣き崩れ、もう帰ろうと藤波が催促する傍で「また来るからね」と涙混じり言った。
「もう来るな ! 此処にも会社にもッ」
と言われて藤波は、深詠子を思い余っていたたまれなくなった。
「僕は辞めますから先輩はずっと居て、また元通りやって下さい」
と藤波は深詠子に帰ろうと促し、彼女も肩で息をするように入り口まで行って「あたしも辞めていいの?」と振り返った。此の時の涙に哀しみはなく情念の泪だった。
「お前ら、もう勝手にせい !」
と上司に言われた。




