深詠子を偲ぶ2
さっきまであの人の部屋に居たようだ。
「呼ばれたのか」
「ううん、最近会ってくれないからあたしの方から押し掛けたの」
「どうして、あんなに仲が良かったのに、毎日会っていると思っていた」
「以前はね、最近は仕事が終わるとさっさと独りで帰って心配して今日、彼の部屋を訪ねたの」
彼はいつもと変わりなく招き入れても表情は穏やかでない。どうして最近は一緒に帰らないのか質した。
「君とはやっていけない」と言われた。何故? どうして? と問い詰めると、あなたの事を云われた。
「何て!」
此の前まであれほど親身になってくれてた上司に、まったく思い当たる節がなかった。何かの間違いだろう、あの人は誤解していると詰め寄った。深詠子は静かに首を振って、あたしどうしたら良いのと藤波の手を掴み激しく揺さぶられた。
「あの人をまだ好きなのか」
うんと、子供のように頷いた。
「じゃあ僕が一緒に付いて行ってあげるから、仲直りすればいい」
「叱られても平気なの」
今度は心配そうに見詰められた。
「大丈夫だ。あの人が僕の事が原因で君を冷たくあしらうのなら、僕は今すぐにでもあの会社を辞めて二人の前から消えるよ」
「ダメ! そんなのいや! あなたも居て欲しい」
と駄々をこねられた。
「僕がいなくなればまた元通りやっていけるから、それで『ごめんなさい』って謝れば良いから一緒に行こう」
「どうして、あなたは悪くないのに」
「君が良ければぼくはどうでもいいんだ」




