兄、深詠子を語る1
真苗ちゃんがお菓子を食べ始めた頃に、当家担当の桐山さんが、もう直ぐ通夜が始まりますからご準備頂けますかと報せに来られた。
真苗ちゃん、残念ね、あとで食べようねと可奈子が連れ出すと、表で待機していた桐山がみんなを控え室から会場へ誘導した。
深詠子が眠る会場は、お通夜の最終チェックで、ホールの職員が慌ただしく動き始めていた。当家から弔問客は殆どないと伺っていても、焼香の案内係と粗供養を渡す係の職員を配置した。
祭壇中央に僧侶が座ると、司会の桐山が「ただ今より故・下村深詠子の通夜の儀を執り行います」と告げられると、鐘が鳴り僧侶の通夜経の読経が始まった。
祭壇前に安置された深詠子の棺の前で、僧侶が読経する後ろ両横に、下村の親族と真苗が、向かい側に深詠子の兄が親族で座り、更に後ろには祭壇に向かって合掌するように焼香台が置かれている。その後ろに整然とパイプ椅子がずらりと並び、座っているのは藤波と可奈子と磨美の三人と磨美の主人とごく親しい人が数人参列した。親族を除けば全部で十人にも満たない。
弔問客と親族の焼香は直ぐに終わり、長い読経が終わると僧侶が立ち去る。それを合図にして、ホールの職員がパイプ椅子を片付けテーブルを用意してクロスを掛け、注文した通夜膳がビールと一緒に並べられた。喪主の下村が挨拶して故人を偲ぶ会食が始まった。
下村の両親は三十分ほど飲み食いして、直ぐに控え室へ下がると、磨美のご主人を交えて生前の深詠子を称えた。矢張り一番目を惹くのは遺された真苗ちゃんだろう。真苗ちゃんはやっと真面な食事にありついたのか、ジュースと寿司を頬張っている。お茶だろうと、此の組み合わせには笑ってしまった。それだけに直してやるのも気の毒になった。磨美に依れば普段はお茶をよく飲むそうだが、此の席にはお酒かジュースしかなかったので、ウーロン茶を追加したが真苗ちゃんはそれ処ではなかった。磨美夫婦と可奈子は途中から帰った。




