深詠子の通夜6
二階の会場に着くと、綺麗に飾られた祭壇に真苗は見とれた。可奈子は真苗の手を取って三つ並んだ一番大きな棺の前まで連れて行った。
「お母ちゃん、ここで眠っているから」
と顔の部分だけ開けて見せたが、斜めで真上から覗けない。
「お顔がちょっとしか見えないよぉ」
ああそうか。届かないのか、とパイプ椅子をひとつ置いてその上に真苗ちゃんを乗せた。
此の子は泣かないどころかまじまじと見ていた。
「お父ちゃんは?」
とこっちを向いた。
「此処にはいやへんの。あんなことしたんやさかい」
「警察にいるのぉ?」
そうやと可奈子が言うと、真苗ちゃんはもう暫く深詠子と対面して椅子から降りた。向こうの小さい箱には妹と弟が居るけどと言えば首を横に振った。
「そうか……、さあ向こうのおじいちゃんとおばあちゃんが来てるさかい、挨拶にいこか」
うん、と頷くと可奈子が控え室へ連れて行った。
藤波にすれば、まるで可奈子があの子の母親に見える。多分それで物怖じせずに振る舞っているのか。どっちにしても深詠子が、この子は真実の愛を伝えるために生んだが子だとしみじみと悟った。
真苗が中に入ると真っ先に磨美が手を取って、向こうの両親の前に座らせた。普通は久し振りに孫の顔を見れば破顔一笑で迎えるが、なんせ被害者の娘だ。無表情で眺めていると真苗の方から「おじいちゃん、おばあちゃん」と声を掛けられてやっと向こうも「大変やったなあ、よう我慢してるんやなあ。ええ子や、ええ子や」と言いながら近くで買ったお菓子を出した。これには真苗ちゃんも好きなお菓子なのか、そっちに関心が移った。あとで聞くと真苗ちゃんの好みを知ってる磨美が用意してくれた。




