深詠子の通夜5
「さあー行こう。お母さん亡くなっても、今なら寝ているようなお母さんが見られるぞうー」
もう少し感情の籠った顔で言えないのかしら、此の大根役者と可奈子は藤波に眉を寄せた。
「ふ〜ん? お母ちゃん死んでないのぉ?」
「そやさかい中途半端な受け答えはこの子の為にならんのに」
と可奈子は嘆いている。
「いや死んでる。……けど葬儀社の人が生きてるように綺麗にしてくれはったんや」
さっきの言い方は良くなかったと藤波は訂正すると、真苗がまた暗い表情をした。
「そんなん出来るのぉ?」
今度は真苗がそんなに落ち込まずに藤波はホッとした。
「ああ、今の化粧は凄いんやで、このお姉ちゃんの顔みたらわかるやろ」
真苗が黙って合わせて頷くと可奈子が「そんなとこで気つかわんでええの」と真苗ちゃんをしっかり抱きしめて頭を撫でてやってる。
タクシーは直ぐに木屋町ホールに着いた。ホール入り口の案内掲示板を見て、二階やねぇと言った真苗ちゃんの顔を二人は足を止めて覗き込んだ。
「真苗ちゃん、あの看板判るの?」
「ウン、お母さんに教わったぁ」
「学校じゃあないの、お母さんなの」
可奈子が屈み込んで訊いてる。
「ウ〜ん小学校二年か、三年か、で、あの字は習わんやろう」
と言いながら二階に向かった。
「向こうのじいちゃんばあちゃんには会った事あるんやろう」
エスカレーターに乗りながら可奈子が聞いた。
「うん、そやけどぉこっちからはじいちゃんのお家には行ったことないですぅ」
「じゃあ向こうから来るのか」
どうやらその辺は深詠子が避けてるのか、向こうがわざとそうしているのか余り会ってないようだ。




