可奈子3
「嘘や、みんなそれほどうちを気にするほどの暇人と違うやろ」
矢張り五年もこの町に居なかったギャップで、この町の人情を忘れている。それだけ新しい家庭に没頭しょうとした努力の跡が窺える。
「それで五年も、よう続いたなあ」
まあねと軽くいなされてしまった。
「啓ちゃんも噂では浮いた話があったんやて、それどうなったんや」
「なんや知ってるんか」
これは意外だった。余程、俺の周囲にアンテナを張り巡らさないと、こんなプライベートな情報は伝わらないはずだ。
「じつは啓ちゃんにだけは言うけど、あたしはあんな男と、ようも五年も持ったと自分ながら感心してるんや」
そんな変な処で感心するか、あの子供時分の突っぱねた可奈子は何処へ消えた。
「あっち向いたらだるま大師じゃないけれど、壁に向かって九年も座禅を組んでるような人とはよう付き合わんと思っていたけど。あれほど煩わしく構われたら堪ったもんじゃないと啓ちゃんの良さが身に染みた」
「ホウ〜、その気になったか」
「もう〜、身には染みたけど、心にはまだ染みついてないわよ〜」
「そやけど、出戻ってからチョコチョコ顔を見せてくれてるがなあ」
「しゃあないやん、昔から知った仲やさかい」
しゃあないと言いながらも、髪が長くなってから淑やかさが出て来た。
「それだけか」
「そうや」
観光客が増え出すと店でとぐろを巻いていたご近所さんも各店へ戻りだした。また来るわと藤波も腰を上げると彼女も着いて来た。