深詠子の通夜2
此処は深詠子のお兄さんが一番効き目があると磨美は頼み込んだ。なんと言っても加害者はあの両親の息子で、君嶋は被害者の兄なんだ。此の立場を利用して情に訴えて被害者側が真苗ちゃんを引き取れば、向こうの両親も養護施設に残すのは避けられて、それで両親の面目も立つだろう。問題は真苗に藤波が関係しているのは避けたい。深詠子の想いを残すには、その一点だけを伏せて話を進める。これで二人の意見が一致して控え室へ入った。
下村の両親は君嶋にはかなり気を遣って頭が上がらない。無理もない、無理心中とはいえ息子は何処も怪我をしていない。せめて病院で治療を受けていれば、少しは申し開きが出来るのに、逃げ回った挙げ句の自首だ。出来てしまったことは仕方ないが、余りにも体たらく過ぎて頭が上がらないのだ。
「今夜のお通夜には誰か来られるのですか」
君嶋が両親に訊ねた。
「いや、近所や親戚には何も言わずに黙って出て来たから、周りは嫁の葬式も知らないから誰も来ない」
「そうね、他にニュースがないときにあれだけテレビで放送されれば、事件に関心が有っても亡くなった深詠子さんがどうなっているかより、捕まった息子さんの方にみんな関心が行くもんね」
元々この結婚に反対しても、息子が決めた以上は、気が乗らなかったが式と披露宴はした。息子が結婚相手を実家に初めて連れて来た時、嫁になる女は言葉や態度では控えめにしていたが、余り初々しさが見えなかった。何が物足らんのかと嫁を見て、何とも言えん虚無感が漂ったのを憶えていた。顔で決めるな、と息子が一人の時に意見したが、親が決める見合いを悉く断った訳がこれで解った。
此の嫁では息子を何処まで支えてくれるか、一抹の不安があって、盆暮れにはこちらから何もしてこなかった。まさかこんな形で先方と向かい合うとは如何にも息子のしたこととは云え、針のむしろに座っている。お兄さんはひと言も息子の不祥事には触れないだけに尚更に辛い。




