深詠子の願い5
「磨美さんは深詠子さんと知り合ったのは藤波と別れて直ぐなんですか?」
可奈子の問い掛けに、一点の陰りもない澄んだ目で話しても大丈夫だと君嶋に促された。
ここまで言われれば拘る磨美ではない。
「ええ、深詠子からその人と別れて直ぐに会社と住む場所を変えて、一ヶ月以内にあたしの会社に来たの」
その人と言った時に磨美は藤波を覗った。
「いつ深詠子さんの妊娠を知ったんです?」
「そうね〜、深詠子とは入社と同時に仲良くなり、お昼には一緒に食べて帰りも途中まで一緒に帰り、休日は誘い合わせて遊びに出掛けるまでになっていたから……」
最初に共通の話題となったのは上司である下村の存在だった。入社早々、彼は深詠子には親切に、社内に於ける仕事関係を教えながら一目惚れだと聞かされて、ひと月でプロポーズされた。この話を深詠子は磨美に相談すれば、彼女も似たような経験をして、下村に付いての更に詳しい情報が入手出来た。磨美に言わすとあの男は欠点はないが長所もない、つまり取り柄のない男だと批評された。男なら一つは秀でた物がないと魅力に欠けるとこき下ろした。ならば一方的にあたしの思い通りになると彼女は考えた。何か下村に押し付ける物があるのかと訊くと「お腹に別れた人の子どもが居る」と言われ、これには飛び上がらんばかりに驚いた。
ーーそれで下村と付き合う気になったのね。
ーーそうなのよ。
と深詠子は逆手にとってこれで下村に迫った。
磨美は半ば良くないとは知りながらも、そんな厄介な物を受け容れてくれるのは下村しかなく賛同して、深詠子は付き合いだした。




