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深詠子の願い3

 究極の愛とは、日常化した生活のもとでは貫けない。日常からの逃避がなければ究極の愛は存続しない持論を展開した。深詠子は感情を直接相手にぶっつけて自分の求める愛に導けば、歯がゆさが募るばかりで、進展するどころか、没落さえ招きかねない。惚れてしまった弱みから、幾ら自分の理論に近づけようとすればするほど癇癪玉が消えては膨らみ、その内に遂に爆発させてしまった。

 君が辿った深詠子との結末を解釈すれば妹の心の内はこんな感じだろう。おそらく君はそこまで深く妹の中に踏み込んでない。ではどうすればいいのか。その答えはお腹の中にいる子に託せば良い。深詠子に取っては君の生命の片鱗を宿した此の子をどうしても育てたい。それで多くのシングルマザーが歩んだ悲惨なみちでは、その実現は覚束ない。そこに現れたのが下村だ。下村がお腹の子をどう扱うか不安を払拭するために俺に相談した。ひとつは今までのお前を捨てておしとやかに、それでいて相手の気をらせれば良いだろう。今なら戸籍はどうあれ、世間からはできちゃった婚として育てれば肩身の狭い想いもしないで済むと直ぐに一緒にさせた。

「それで真苗は、深詠子にとっては究極の愛の形見として君の元へ送ったのだろう」

 渦中にいる藤波には見えにくい深詠子の心の奥をお兄さんは的確に捉えていた。

「この前、聞いた啓ちゃんの話と今伺ったお兄さんの話で、深詠子さんと謂う人の心の中と外にある奥深さを一気に知ることが出来て、あの人の認識が変わっちゃった」

 可奈子にすれば、藤波のそんな恋で遺された遺児なら応援したく「あの子は大事にしないとダメでしょう」とまで可奈子に言われ、気持ち良く深詠子さんを送ってあげられる。通夜と葬式には是非とも参加したい。薄情な親戚より心の籠もった人の手で、見送ればあの人も浮かばれる。そう考えると甲斐甲斐しく世話をする磨美さんに対する考えも変わってきた。


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