可奈子2
可奈子とは三つ下だが早生まれと遅生まれで学年は一つしか空いてない。近所で同じ中学、高校までは一年間ずつ在籍したが、勝ち気すぎて学校では同じような相手とは諍いが絶えず、今度の結婚相手も多分それで出戻りなんだろう。両親に言わすと、お前にはのほほーんとして何を考えているのか判らん藤波が丁度合っている、と最近帰って来た娘に言い出した。 娘は自分と同じようにテキパキと動いて言ってくれる人が良いと思って一緒になって暮らしてみるとお互い怒鳴り合って処置なしと解った昨今だ。その所為か、出戻ってから昼間はちょこちょこ藤波の店に顔を出すようになった。合わせて藤波も店が始まるまでは向こうの売り上げに協力して、息抜きも兼ねて喫茶店へ行く。向こうは平安神宮に近いだけに賑やかで混むと、歩いて数分の距離なので配達を頼むときもある。
「可奈ちゃん、夕方には観光客も居なくなるやろう。その頃には開けてるのに、何でうちの店に呑みに来いへんの」
「そやかて、あの居酒屋は年寄りばっかりでまるで老人ホームやないの」
「ホームは余計や、内の客は親父の遺した財産やさかいせめて倶楽部にしてくれ」
お父さんが遺したお客さんだけに、もう人生の賞味期限が切れてもおかしくない人ばかりで、そろそろ店のレイアウトを考えなアカンと言われてた。
「そやけど、みんな元気やで」
「そやかて、今のお客さん、あと何年来てくれるのや、そのうち足腰弱ってくるでしょう」
可奈子は何処まで本気で店のことを考えてくれているのか解らない。
「それより、可奈ちゃん。うちの店の心配より、みんなその歳で実家に帰って来て先行き気にしているで」
と藤波はひそひそ話をする他のテーブルを見渡した。疑心暗鬼じゃあないが、彼女も急に落ち着きをなくした。