深詠子無言の帰宅9
「三沢さんから電話で話を聞いて、此処でなくお宅の葬祭ホールで深詠子の葬儀一切を執り行って欲しい」
と葬儀社の人を前にして、開口一番に下村の両親は話を始めた。両親は憎しみと悲しみを天秤にかけて、此処までの道中でスッカリ腹を決めた。
社員はここから一番近い当社の葬祭ホールを勧めたが、両親はもう少し離れたホールを希望した。そこで地理的にも河原町の繁華街に近い鴨川に面した比較的落ち着いた場所に有るホールを勧めた。遠方から来る身内には解りやすいと磨美も説明した。両親は社員より磨美の説明に納得してそこに決めた。
早速、慌ただしくご近所の目の届かない昼下がりの午後には、深詠子と子供達の棺を載せて一足先に自宅からホールに向かった。磨美は自宅の戸締まりと子供達には静かにお留守番を言い付けて出た。磨美の車に両親と可奈子が後ろで、助手席に藤波が乗り、木屋町ホールに向かった。途中で磨美は、さきほど深詠子を引き取った警察前を通り、いつから面会できるか判らないが、息子さんは此処の警察署に留置されているとハンドルを持ちながら説明した。
「昨日の晩遅く自首して此処二、三日はそれどころじゃないだろう」
そうねと磨美は警察を行き過ぎたが、藤波は眉を寄せて建物を直視していた。
そこで両親が、孫は三人居たが一番上の真苗はどうしたと聞かれた。磨美がハンドルを持ちながらもチラッと、どうするのよと謂う目付きをした。
「無事です。あの家から上手く逃げられて、ご心配無く」
と黙る藤波に代わって取り敢えず磨美は答えた。
「じゃあ何処に居るんだ、三沢さんの家ですか?」
それが〜と磨美は困って返事を躊躇した。
「真苗ちゃんは暫く児童養護施設で預かってる」
と可奈子が隣で両親に適当に説明した。
「じゃあ落ち着けば家で引き取ろう」
と両親が言うと、藤波も磨美も、どうすると顔を見合わせた。丁度そこへ深詠子の兄から藤波の携帯に、今、京都駅に着いて何処へ行けば良いか訊かれた。そこから冠婚葬祭の木屋町ホールと言えばタクシーは解るから行ってくれると連絡した。これには下村の両親は、君嶋家の人には合わす顔がないと困惑した。




