深詠子無言の帰宅8
「だってそうでしょう。深詠子ったら話し上手で人を丸め込めるのが巧いというか、あれは天性の持って生まれた素質かしら。映画に出れば監督も舌を巻くでしょうね」
「それでこの人を丸め込んだのッ」
可奈子も負けられないと言い張った。
「オイ、俺にはそうじゃない。心底、深詠子は本音で接した」
「嘘と誠の境目が曖昧な人を啓ちゃんはどうして見極めるのッ」
「ちょっと可奈子さん、聞き捨てならないわよ。深詠子は心を寄せた人には裏表なく本音で相手のことを考える人ですからね」
「さあどうでしょう、奥の棺の中で笑ってるかも知れないわね」
「じゃあどうぞご覧遊ばせ」
磨美も黙ってられずにけしかけると、可奈子も立ち上がろうとした。
「あのうー、もうそれぐらいにされたらどうでしょうか。お二人とも気持ち良く故人を送ってあげてください」
リビングの末席に居た年輩の葬儀社員が妖しい事の成り行きに割って入った。磨美が鋭い目で見返した時に玄関のチャイムが鳴った。可奈子に釘を刺して磨美が応対に出た。
「暫くご無沙汰なのに良く解りましたね」
「あの立派な家は遠くからでも分かるよ」
と言いながらリビングにやって来た。下村の父はまだ還暦前だが老けて覇気がない。母親も都会で見る五十代よりかなりやつれて見えた。深詠子が八年前の里帰りで、此の気怠い両親を見て、藤波と同じ想いに駆られたと想像が付いた。
磨美は早々に葬儀社の社員と対面させて、直ぐさま両親には葬儀社の人に手短に今後の予定をどうするか促した。




