深詠子無言の帰宅5
「磨美が会って早々馴れ馴れしいのは、深詠子が俺の事を相当吹き込んで、向こうはだいぶ前から俺とは昵懇のように仕上がってるんだ」
「あなたの別れた彼女も勝手な人ね。こっちは全く知らないのに、向こうは啓ちゃんの事を知り尽くしているなんて、そんなの一方的過ぎるわよ。それで平気でいられるの」
「まあ今はそんな事を云ってる場合じゃない。何とか早く深詠子を弔うのが先決だ」
「まあ、それもそうね」
と可奈子も表面的には一応納得と言うか棚上げした。深詠子は事件の有った最寄りの警察署に安置されている。署に着くと早速、磨美に深詠子の所在を訊ねた。さっき葬儀社の人が二人の子供はもう既に棺に納めて、今は深詠子を棺に納棺していた。
「一応子供はお顔の部分だけは扉があって、顔は見られるけれど……」
云われて、まだ見ぬ深詠子の子供を確かめたかった。磨美に案内されて署内の安置所に行った。同じ此の場所に下村も留置されていると知って複雑な気分だ。
「下村はどうしてこんなことをしたんだ」
「自分も死ぬつもりだったからそうしたのよ」
「それがどうして此処の留置場に居るんだ」
磨美は藤波の八つ当たりを無視した。
「会社の上司だったから、結婚した深詠子より下村とは付き合いが長くて分かるけど、第一に別れたくなかった。それが一番の理由だと思う。それで本人も後悔しているはず」
安置所には小さな棺がふたつ並んでいた。此の部屋は事件現場の遺体を保管する所で、身内が本人確認のために来る場所だ。最初から死体が棺に納めて在ることは普通はない。台の上に置かれた白木の棺の一部に、観音開きの小さな扉があった。藤波は合掌してから扉を開けた。夫の方はまだテレビでしか見ていないが、よく見ると何処となく深詠子に似ている気がした。だが女の子の方は細い瞼の形が深詠子に生き写しだった。
「美澄ちゃんの方は目許が深詠子に似てるでしょう」




