深詠子無言の帰宅3
警察も連絡先は下村の実家しか判らず、また深詠子側の親族も詳しい事は掴めず、しかも下村の実家は被害者と加害者の双方に関わっているだけに、何処に電話して良いか迷った揚げ句に、被害者の嫁ぎ先の実家に電話した。
「そんな状態だから親族が来るまで、あたし達が今はするしかないのよ」
「肝心の深詠子の親族はどうしてるんだ。九州から来てるのか?」
「深詠子の実家の君嶋家も、彼女が嫁いだ婚家には随分とご無沙汰していて、とにかく両親は高齢で深詠子のお兄さんが遠方から来るけど、この人も四十代でそれ相応の仕事もあるし、それに嫁ぎ先を差し置いて出しゃばれないし、第一に深詠子はその婚家の亭主に殺されたのよ。だから大変なのは判るでしょう。こんな状況だからこそ、深詠子もあなたを頼った。だから今、頼れるのは真苗ちゃんを預けた藤波さん、あなたしかいないのよ」
深詠子は離縁していない以上は、下村家の人なんだと磨美は強調した。こうなると深詠子が、何故、真苗を産んだのか理解出来ない。下村はそれを知っていたのかその点も気になる。
「取り敢えず直ぐ来てくれる」
「分かった、が、真苗はどうする」
「もちろん連れて来て」
「それはどうだろう」
「真苗ちゃんはお母さんの事が心配でしょう」
「それ以上に別な心配があるが……」
藤波は真苗ちゃんを眺めて思案していると、磨美から何度もお願いと念を押されて電話が切れた。




