深詠子無言の帰宅1
その日は朝から夏の陽射しが燦々と降り注ぐ日曜日だった。真苗ちゃんが藤波の店の二階に移って二日経った。真苗ちゃんにすれば毎日が夏休みだが、藤波には一週間店を開け通して、親父の馴染み客を適当にあしらって、迎えられた日曜日だ。先週までなら此の日曜はゆっくりと休めた。今日は遠い昔に別れた女の付けが廻って来て、とんでもないものを押しつけられた。本を正せば藤波の不始末と謂えなくはないが、飛び火した対岸の火事を背負わされた。
毎朝、真苗ちゃんに朝食を済ませる仕事が出来てしまった。さて此の子をどうしたもんかと、ゆっくり思案できる時間がやって来たつかの間の休みを、切り裂くように電話が鳴った。電話はおとつい会ったばかりの磨美と分かり、昨夜、自首した下村に関するものだった。
おととい会ったばかりの磨美が、随分と長い付き合いのように、ずかずかと土足で踏み込むような慌ただしさを電話口から漂わせた。
「今朝、下村家から電話があり、それが大変で大騒ぎになっているのよ」
「まあ落ち着けッ」
深詠子から磨美の噂は聞いていたが、ほとんど会ってない女なのに、この前の電話と言い、向こうの話っぷりに吊られてしまった。
「それでどうしたんだ」
「どうもこうもないわよ。結婚してから深詠子と一番親しかったあたしではどうにもならないのよ」
「何のことだ」
警察から検視の終わった深詠子を引き取りに来てくれと言われた。何であたしなのと聞き返すと「亡くなった下村深詠子は実家に断られた。それで警察は一番親しい貴方に、実家の者に代わりやって欲しい」と下村の親の承諾を得て頼まれたのだ。
警察でも、旦那は自首したばかりで、本格的な調書をまだ取れる段階じゃあない。それで検視の終わったご遺体を此処に長く安置できないと云われた。
「それは俺よりも、先ず下村の両親がするものだろう」
「もうッ、だから散々文句を言って引っ張り出して、今、下村の親族がこっちへ向かっているんじゃないのッ」




