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藤波の店2

彼は身をほぐしてひとつまみ口に運んだ。

「この味や、あんたの親父さんが作ってくれた昔の味や」

「源さんが、いつもちゃちゃう、何べん言うたら分かるんや、って言うてくれたお陰で五年経ってやっと習得出来た」

 藤波は源さんの前に置いたコップに焼酎を並々と注いだ。

「おやっさん、亡くなってもう五年にもなるか」

 と焼酎を呑みながら金目鯛を箸で突いていた。黙って食べるのを見てテレビを付けた。

 そこでいつものメンバーの三人がやって来て急に賑やかになった。その中にたまにしか来ない山崎のじいさんが居た。源さんは彼を見るなり、珍しいなあと声を掛けた。

「オッ旨そうやなぁ。そこの壁のお品書きに出てないこれをもらおうか」

 と席に着くなり催促した。

「何言うてんね、これはわしが別注したやつや」

「そやなあ源さんは、年金全てこの店につぎ込んでるそうやないか」

「アホ言え、唯一のわしの道楽や、他のん頼め」

 しゃあないなあ、と言って注文が決まるまで取り敢えず枝豆を出した。久し振りに来た山崎のじいさんは出された枝豆を頬張りながら、壁に貼り出された今日のメニューからヨコワを頼んだ。

 山崎のじいさんは工事現場の警備員をやってるだけに、顔は真っ黒に日焼けして久し振りの勤務明けで、来るなりもう中ジョッキのビールを空けてしまった。

「今日の枝豆はええ調子で塩が利いてるなあ、どないしたんや」

「どないもない、いつもよりちょっと切り込みを入れただけや」

「あっ、ほんまや、先っぽ綺麗に切ってある。えらい今日は手間掛けてどやねぇ、源さんが金目鯛別注したさかいか」

「そやったら毎日注文してもらわんと困るなあ」

 やっさんが言った。

「そんなアホなァ、年金が持たんわい」

「なんや此処に居る連中は年金年金って調子ええのう」

「山崎のじいさんは年金足らんさかいまだ働いてるんやなァ」

 その山崎の前に三枚に下ろしたヨコワを出した。





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