真苗に説明する3
何でもお母ちゃんがお父さんはお仕事が大変なんやさかい、あんたらから喋るように言われた。どんな仕事か解らんが、深詠子は三人の子供に掛かりっ切りなのに、この子を真面に育てていると感心した。
「そしたらこの枝豆を枝からむしり取ってくれるか」
取り出した枝豆をカウンターの前に置いた。
「うん」
「むしり取ったら先っぽちょっとだけ切って、その塩水の入ったポールに浸けとくんや」
「何でそうすんのぉ?」
いちいち説明しなあかんのか。子供を相手にするのは面倒くさいのに深詠子は苦労したんやろう。
「丁度店開ける頃にええ塩味になるさかい」
「うん、分かったぁ」
見ていると、子供にしては器用に手先を動かし、枝豆の鞘の端を綺麗に揃えて切って塩水に漬けていた。ひょっとしたら簡単な料理ぐらい深詠子が教えていたかも知れない。
「真苗ちゃん、さっきまで遊んでた二階の押し入れに親父の布団があるさかい暫くはそれで我慢してくれ」
「うん」
と頷きながらも手はちゃんと動かしていた。
「お父ちゃん、今ごろどうしてるんやろ」
「あんな酷いことしたのに気になるんか」
「うん」
真苗の話だと、最初は夫婦喧嘩の後、お父ちゃんが弟と妹を相手に走り回っていると思った。血だらけでお母ちゃんが二階へ上がって来た時、まさか、あの、お父ちゃんがやったなんて、一緒に死んでくれって言うまで信じられへんかった。
そうか、離婚を迫られた深詠子はともかく。そこまで慕われた子供を手に掛けても、死にきれない下村への心境の接し方が、藤波と真苗では大きく違った。




