真苗に説明する2
「これは金目鯛と言って、余り家庭の食卓には出ないからなあ」
「そしたら何処に行ったら食べられるのぉ?」
「ええ料亭に行ったら食べられる」
「そしたら此処はあかんのちゃうのぉ」
えらいハッキリ言う子やなあ。
「そやなあー、料亭ではええ値するけど、此処で出してもそんな値段では無理やねん」
「なんで無理なん?」
「そやかて、畳の奥座敷で障子越しに庭を眺めながら食べるさかいや。それに真苗ちゃんのお家に、今、座ってるような椅子なんかあらへんやろ」
「うん、そやなあー」
まあ、ぐじぐじする子よりハッキリしてた方がええか。それと可奈子が言ったように近いうちに椅子は取り替える。
「そやろう。そやさかいこんな古びた椅子は廃品回収業社でも持って行ってくれへん」
「そしたら何処へ持っていったらええん?」
「まあええとこ風呂屋の焚き付け材木やなあ」
燃やしてしまうんか、と言ったきり黙った。何かナイーブなとこもあるんか。
「お母ちゃんは優しかったか」
「うん」
「どんな風に」
「いつも晩寝るとき本読んでくれたぁ」
そんな意外な面は藤波には微塵も感じ取れなかった。もっとも二人とも愛に溺れて同棲した一年半ではそんな場面に浸る間もなかった。
「どんな本、まさか、絵本は早うに通り越してるわな」
「そんなん里香ちゃんでも読まへん」
ああそうか、最近の子供は訳の解らんゲームに夢中なんか。
「里香ちゃんて、さっき二階で遊んでた子か」
「うん」
「もう一人の男の子は何て云うのや?」
「遼くん、遼太」
「遼太くんか。あの子見たら真苗ちゃん、パッと明るくなったなあ」
「ほんまかぁ?」
「此処でずっとあんな感じで居てくれたらええなあー」
「うん、ほなあ、そうするぅ」
此の子は何で気分転換がこんなにハッキリしてるのか、両親のどっちの影響なんだ。
「お父さんはどうなんや、真苗ちゃんにちゃんと話してくれるか」
「お父ちゃんは忙しいさかい。休みの日以外はあんまり顔を合わさへんけどぉ、おおたらよう話してくれるぅ」
「どんな話や」
「学校のこととか、里香や遼太のこと」
「そうか、そんならお父さんは自分のことは喋らへんのか」
「うん」




