磨美の話5
「いや、それだけ子供の心情を酌み取りすぎると一心同体になっちゃうってことはないのか。思い詰めた時に遺された子供を考えると当然じいちゃんやばあちゃんが居れば子供を託すだろうが、下村の頭に道連れ以外にそんな考えは抜け落ちていたのか」
「それが深詠子も言ってたけど、そんな思想は皆無なの。それに子供を遺すのが不憫でならない親も居るでしょう。真苗ちゃんも下の子達も可愛かったのに、ニュースでは深詠子が刃物で殺されたけれど子供達は首を絞められたそうよ」
「そうだなあ、あんな可愛い子供たちならそうするのか。でもなあ、親が死ぬのは勝手だが、子供に手を掛けるのはどうだろう。里親が見つかるまで児童養護施設に預けるだろう」
「でもね、人殺しの子供だって一生言われるのよ」
「自殺だろう」
「本人はね、でも深詠子は違う。ご自由にと言ったように。追随する気はないのを無理に引き込んだのよ」
まあ、そんな男ほど仕事が順調で営業以外に考える事がなく、自殺する者を馬鹿にして軽蔑する。自分とは無関係な世界の出来事としか考えられず、絶対に受け入れない者ほど、そこから抜け出す心構えがない。俺のように常に死と向かい合って必死でもがきながら生きてる者は、そこから抜け出すすべを模索して、全力で乗り越えるが、下村は逆に死に向かって埋没して行く。そうなれば周りに映るものはこの世に遺したくない。自分が築いた愛着のあるもの全てをあの世へお供させる。すなわち有りもしない死後の世界に逃げ込む算段を描くと、取りこぼしのないようにする。自分の物は自分の物として、妻や子供を私物化する人ほど無理心中を強行する。そこに同行拒否は許さない決意で実行する。もう相手の身になればなるほど残す事への憐れみより、共に逝く妄想に取り付かれただけに躊躇いがない。 「何故そんな男と結婚したんだ」
「甲斐性のある男だと思ったのよ。ニュースで郊外にあるモダンな住宅を見たでしょう。近所とは謂え、瓦屋根が続く家がある中で、下村の家はひときわ目立つ尖塔のような急斜面の屋根に、鳩時計のような小窓をあしらって浮き世離れしたお家なのよ。それも旦那の甲斐性があれば建てられた。おそらく下村に出会えなければ住めなかったお家」




