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谷を渡る雲9


 考え込んでいると、いつの間にか可奈子は真苗を連れて戻っていた。可奈子にしてもいきなりなんの事情も解らずに、あなたのご落胤らくいんですと一枚の紙切れを添えられただけではどうしていいか判らない。テレビから流れた情報以外は全く知らずに、これで判断するには心許なく、当然もっと詳しく知りたい。

「ねぇ、その磨美さんって謂う人は確かなの」

 表面はチャラついても根はしっかりしている。深詠子が会社に面接に行った時に最初に事務所で会った彼女が人事課に案内したそうだ。それ以来、深詠子と別れるまで色々と世話になった。もちろんそれは俺が目的でなく友人としての深詠子にだ。

「そうなの。要するにあなたでなく、深詠子さんと深い仲の人なんか」

「そうだ、その人が働いてる主人と家の中に居る手の掛かる子供二人をほったらかしてこっちへ向かってるんだ」

「家は近いの?」

「解らんが、市内ならタクシーを飛ばせば三十分以内だろう」

「そうか、連絡受けて直ぐに出れば小一時間こいちじかんもすればれるか」

 言ってる間に玄関の引き戸を開ける音がした。丁シャツにジーンズの軽快な服装で磨美は現れた。もっと驚いたのは、後ろに真苗より小さい子が二人居た事だ。

 真苗が彼女を見付けるなり、二人の子供に駆け寄ったのには更に驚いた。

「おい、どうなってるんだ」

「見ての通り、深詠子の家は近所なのよ、で、この子らはいつも一緒に遊んでいるの。それに家に置いとけないから連れて来た」

 上の男の子は六歳ぐらいか、下の女の子は五歳か。まあ真苗はお姉さんだろう。

「じゃあちょっと二階で三人遊ばせてくれないか」

 磨美は手慣れたもんで「知らないおうちなんだから行儀良く遊ぶのよ」と言い聞かして二階へ上げた。


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