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谷を渡る雲7

 深詠子の最後の想いを受け止めても藤波はそう簡単じゃない。昨日は真苗を店の前まで連れて来て、彼がまだ独り身を知ってこの子を寄越した。独身だけに店の営業中は誰が面倒見るんだ。却って警察から児童養護施設に預ける方が精神面はともかく生活面は保証される。深詠子はおそらくそんな考えは省いたのだろう。しいいて言うなら、藤波に全てをゆだねたのだ。厳密に言えば二人の愛が理屈抜きで、過去の全てを帳消しにした。現に藤波も引き取るのに傾いてる。

「敬ちゃん、この子、夏休みが終わったら、どうなるの。ウッ、その前に今日はお店開けるの?」

「当然店は開ける。みんな夕方まで退屈でこの店に暖簾が掛かるのを今や遅しと待ってるんだ」

「じゃあこの子はどうすんの。今日は臨時休業にして、お年寄り達に此処は老人ホームじゃないって、頭を冷やしてもらえば」

「彼らも毎日来るわけじゃない。定休日はちゃんと有るんだ。日曜と決めてある」

「じゃあ多少ボケてるから、今日が日曜日と勘違いするかも知れないわね」

「そう都合良くボケてくれないだろう」

「だって深詠子さんにも都合良く押し付けられて」

「自分に死が迫れば、せめてこの子だけでも彼女は救いを求める」

「あたし、お店手伝いますから置いて下さぃ」

 と真苗ちゃんは寂しげに俯き加減に言いだした。見れば盛られたピラフは平らげていた。

「あの老人達の良いマスコットになるかも知れないわね」

 と可奈子は思い詰めた真苗の気分をほぐそうとした。

「その前に誰の子か詮索するだろう」

「そうなると、ハッキリしとかないといけないか……」

 可奈子も現実的な藤波に同調した。  

「お父ちゃん死ぬから真苗ちゃんにも死んでくれって言われたの ?」

 うんと頷いた。

「でも、お父ちゃんずるいから分からへん、そやのに置いてもらわれへんの?」

 と真苗の悲愴感に二人は顔を見合わせた。





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