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風は谷を渡る雲を追う2

「もう一度聞きます。包丁を握った手の感覚は、どのようにして下村さんの脳裏に伝わったんですか?」

 下村はウ〜ンと唸ったが、前回のように頭を抱えて動揺する事はない。今回はいたって真剣に何かを見詰めている。日本で一、二位を争うコンピューターでも、これほど目まぐるしく動かない早さで、彼の神経回路は返事を求めて働き出した。

 藤波は言葉を止めて静かに見守った。

 彼の神経回路がオーバーヒートして切れても、彼の手は頭を抱えるのでなく仕切りに自分の手を見詰めていた。

「そこには、今まで甲斐甲斐しく家事をやってくれていた深詠子はもう存在しなかった」

「代わって誰が現れたんです」

 下村は瞑想からハッと我に返った。

 此の時点では解らなかったが、階段を上り詰めた先に何かが見えた。今思えば、神々しいばかりの幻覚を見て、包丁を持つ手の力が抜けた。おそらく目の前に居る真苗の前に現れた何か別なものに力が吸い込まれるようだった。

「それは、さっき私が言った深詠子の化身のような菩薩像では無いんですか?」

「そうです。それだ! 三人をあやめてまた現れたんです。そのあとに凄い衝撃を感じた」

「ウッ。何か稲妻か、それに似た激震が走ったんですか?」

 下村は深詠子の魂が乗り移った包丁に駆られて、次々と殺生を繰り返し、最終局面では天に向かって延びる階段を昇り詰めた。そこで彼が見たのは、あの時に見えた深詠子だ。同時に烈しい稲妻が脳天を直撃して、だらりと包丁を落とし掛けたあの時だ。三人をあやめたいましめなのか。違う、深詠子の中に生き続けていた化身が、深詠子の死と共に離れて下村の前に現れたのだ。その姿におののいて、握りしめた包丁の柄を持つ手の力が失われた。

「解りません。ただ、身体からだがふわふわと宙に浮いていた。いや、お花畑の中を駆け巡っていた」

 二階へ上がる階段なのか、後を追って天国に登るはずの階段なのか、とにかく下村は踏み締めていた。


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