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心の闇に光を2


 一階で三人をったときは目の前に居るんですから、相手の顔をじっくり観る余裕も必要もなかった。階段の上がり口に居た真苗ちゃんに下村さんは見上げて、真苗ちゃんは見下ろして顔と顔を合わせた。その位置から刺すには包丁は届かない。階段を上がりきって、真苗と同じ位置に立たないと持っていた包丁では、その位置では刺せなかった。それで立ち止まった。三人をあやめた時は立ち止まる余裕がなかった。この場合は余裕があって次の瞬間には、一瞬にして殺意が別なものに置き換わった。その時にあなたは何を見たのです? とにかく下村さん、真苗ちゃんの話だと、あなたは持っていた包丁から手の力が抜けて包丁はだらりと下がった。その瞬間を真苗は見逃さなかった。あなたは鋭い衝撃を受けて下まで転げ落ちた。気が付くと入り口近くのダイニングに横たわる真澄を真苗は抱きかかえようとした。そこで起き上がった父を見て、慌ててそのまま玄関から駆けて行った。

「これが、あなたに、私が、今日、直接、会って確かめて欲しかったものですが、何処か違っていますか」

「いえ、間違いなくその通りで、一字一句、文句の付けようがありません」

 文句は余計だと苦笑した。これまで見せたことのない屈託のない下村の顔に、深詠子の境地におちいってゆく一途なものを垣間見た。此の隙間を突破口にして一気呵成に問い詰めたいが……。

「深詠子、さんとは一目惚れだったそうですね」

 一気に八年前に呼び戻されて下村の頬が緩んだ。

「そうです。それでデートに誘ったら受け入れてくれた」

 静かに、それでいてなんの屈託もなく云いきった下村に、釣られて気ままに暮らした深詠子との日々が藤波の心の中にも蘇って来た。磨美に肘鉄を喰らった下村の場合は新たに深詠子とのデートで得られた輝きだ。一方の藤波は既に同棲を終えた気怠さがあの時にはあった。モテない下村を結婚させたのは他でもない、藤波が抱いた深詠子に対する愛の過信だった。


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