事件の闇に挑む3
「勿論、そのために三木谷さんにあのメールを託したのですから、今、直ぐに会いたいですね」
「今日は週末ですから一般の方はもう面会できません。それで明日からの連休明けで、火曜にはうちの特権で面会枠を取っておきます」
これで三木谷は、下村が嘘を言ってはぐらかしてない自信を持った。矢張り藤波と謂う男には、妻の深詠子さんに繋がる何かを、下村は感じてる。下村は彼の目の前でなければ、あの事件に至った深層心理が浮かばないと確信した。
週明け藤波は、いよいよ下村との面会いに警察に行く。軽トラは可奈子と真苗が中央卸売市場に使って、バスに乗って向かった。
休日と振り替え連休を挟んで三日後に、下村との面会を三木谷は取り付けた。此の間隔は下村にもメッセージに対する十分な思考時間になった。
真苗の言った父に対する考え「どっちでもいい」は、父に因って家族全て失い、身の置き場のない真苗自身の諦めのようにも聞こえる。また新たな家族を求めているようにも見える。真苗との接触が多い、可奈子に云わすと後者の方だと言い切った。それには深詠子さんが、啓ちゃんを家族に紹介するために実家に連れて行き、そこでガラシャと「草枕」の場所を案内した。あの話で真苗ちゃんは、本を読み藤波と深詠子との共通点を探った。
そこは深詠子さんが、子供時分からよく行った場所だと、磨美さんに聞いた。真苗ちゃんも母のお葬式が終わって自宅で聞かされて、彼女なりに此の二つを調べた。ガラシャは母の生き方と重ね合わせている。「草枕」は啓ちゃんの自己中心的(人には優しいが)な生き方が、漱石の非人情と共通すると、深詠子さんは受け取ったようだ。実際、口数の少ない啓ちゃんを真苗ちゃんも同じと受け取った気がする。果たして下村の場合はどうなんだ。下村は深詠子に対して持つ独占欲は、美しく尊い者を崇めたいだけで、けして愛の裏返しではない。そこに歪な感情を注いだ下村が、何故、道連れを選んだ。